矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 104


☆ 「言う」は「いう」か「ゆう」か・・・?


「嘘と坊主の頭はゆったことがない」こんなこと最近はほとんど言わないので・・・、
こんなことわざはさておいて、でも日本語学習者からよくこんな質問を受ける。
「うそをいう」はダメですよね・・・である。日本語教師として最初は「うそをつく」と
教えるので「うそをいう」は何となく気になるのであろう。確かに「うそをつく」のほうが
一般的であるが、「うそをいう」ももちろん間違いではない。どちらでもいいですよ、
そんなことあまり気にしないで・・・である。

しかしこの「言う」という動詞は日本語教師にとってなかなか手ごわい。この「言う」に
振り仮名を付けるとすれば、日本人は間違いなく「いう」であり、「ゆう」とは書かないで
あろう。書き言葉では必ず「いう」である。でも会話などでは「ゆう」もよく聞く。特に
「て形」の「いってください」は「行ってください」と紛らわしく聞こえるので、「ゆってください」と
発音する人も多いのでは・・・。

これはもちろん個人差や方言なども絡んでくる。関西弁で「そう言ったやろう」を
「そういったやろう」と読んでしまっては何となく味気なく、「そうゆったやろう」のほうが
ぴったりするのでは・・・。最近のブログなどでは大半が話し言葉で書かれているので
こんな表記がよく目につく。

このようにこの「言う」は日本人は話し言葉では場面に応じて「ゆう」を使っている。
そこで当然「うそをいう」を「うそをゆう」と言ってもいいのであろう。そうでなければ冒頭の
「嘘と坊主の頭はゆったことがない」が説明できない。「うそをゆう」と「頭(髪)を結う」を
かけた粋な洒落なのだから・・・。

そしてこの「言う」だが、敬語が絡んでくるとさらにややこしくなる。「言う」の謙譲語は
「申す」と教える。自分のことをいう場合は「私は○○と申します」のように「言う」の
代わりに「申す」を使わなければならないのだから学習者は大変である。

 そして敬語に興味が出てきた上級者からの質問である。お客さんに「申し込んで
ください」はおかしいですよね・・・。確かに「申す」は謙譲語であるから、自分が
申し込むのは分かるが、お客さんに「申す」が入った動詞は間違いだと思ってしまうのも
無理はない。でもこの「申し込む」や「申し出る」などのいわゆる複合動詞はもう謙譲語
でないですよと教えなければならない。ややこしいそして大変である。

また漢字が好きな学習者からはこんな質問も・・・、「いう」の漢字は「云う」もあり
ますよね。違いは何ですか・・・である。うーん、とても困ってしまった。「云う」はなるべく
使わないでください・・・。実に情けない説明ある。

でも確かに「云う」は常用漢字ではないので基本的には使わないのが無難である。
この漢字の語源は「伝える」であり、「言い伝え」の意味を強く出そうとする場合、
例えば「昔から『嘘と坊主の頭はゆったことがない』こんな表現が云われてきた」、こんな
場合は「云う」のほうがよさそうだが、でもこんなこと(いって・ゆって)も無駄かも・・・。



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