☆ 「お湯を沸かす」はおかしい・・・?
「勇気がわく」の漢字は「湧く」か「涌く」かどっちですか、辞書には両方出て
いますが・・・。漢字が大好きな日本語上級者からこんな質問を受けて困って
しまった。こんなことあまり意識したこともなかったが確かに両方ある。うーん、
即答など出来ず・・・・。いろいろ調べてみると、「涌」は「湧」の異体字といわれており、
現代では「湧」のほうが標準とされている。意味的にはどちらを使っても全く問題ない
のだが、両方とも常用漢字ではないので、生徒には「どらかというと『湧』ですが、
そんなこと気にせずひらがなで書いたほうがいいですよ」と言ってしまった。
しかしその使い分けは本場中国ではどうなのか、ちょっと気になったので、何人かの
中国の友人に聞いてみた。でも人によってかなりまちまちではっきり分からないのだが、
中国では人の名字などは「湧」を使うようである。日本では一般的には「湧」のほうが
多いが、人の名前や地名は「涌井」などのように「涌」のほうがはるかに多い。
確かにややこしい。
またこの「わく」は「沸く」とも絡んで日本語教師としてはなかなか大変である。
とりあえず、「沸く」は「お風呂が沸く」や「お湯が沸く」と教え、「湧く」は地中から
水などが湧き出ることをイメージしてもらい、「温泉が湧く」や「勇気が湧く」などの
例文を出して教えている。確かにややこしいが、漢字が好きな上級者は何とか
分かってもらえる。
でもここでちょこっとややこしいことが・・・。いまバンクーバーはアイスホッケーの
プレーオフで大いに盛り上がっているが、例えば「GMプレースが歓声で沸く」であり、
一方「GMプレースに歓声が湧く」となる。「歓声で沸く」と「歓声が湧く」と漢字が
違ってしまう。我々日本人は何となく分かるのだが、確かに漢字になじみのない
学習者にはとても面倒である。
そして次に表題の「お湯を沸かす」である。英語では確かにboil hot water とは
言わず、boil waterとwaterを使う。すると英語圏の学習者は「お湯を沸かす」は
おかしく感じ、「水を沸かす」といいたくなってしまう。そんなこと別にどちらでも
構わないのだが、日本人は「お湯を沸かす」を使う人が多いと思う。
でもちゃんと使い分けている。たとえば「あのやかんに入っている水を沸かして
ください」になるであろうし、「あのやかんでお湯を沸かしてください」に・・・。
文法的にも「変化」に注目するか、「結果」に注目するかの違いでどちらを使っても
間違いではない。
でも「お湯を沸かす」はおかしいのではという意見もある。お湯はもう沸かす
必要はないのだから英語表現と同じように「水を沸かす」なのでは・・・である。
確かに理屈だが、こんな議論によく使う例文が「ご飯を炊く」である。本来であれば
「お米を炊く」といわなければ・・・。文化が異なるので訳しにくいが、英語では
cook the riceとriceであろう。でも日本語はどちらでも構わない。しかし
「ご飯を炊く」のほうがはるかに自然に感じる。
正に言葉が持つ文化である。言葉を教えることは文化を教えることといっても
過言ではない。日本語教師としてそんな「文化を教える喜び」が沸々と湧いて
くるのである。
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