矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 86


「さくら」と「サクラ」は違うの・・・?

「バンクーバーは夏時間になり、日もどんどん長くなって、サクラもそろそろ咲きますよ」
こんなメールを日本に行って仕事をしている日本語上級者に送った。そして
返信がきた。その中に「先生、どうしてサクラとカタカナで書くのですか、カタカナは
外来語に使いますよね。ひらがなのほうがいいのでは・・・。でも僕は『桜』の漢字
知っていますよ」である。

うーん、確かに・・・。とても困ってしまった。つい何気なく「サクラ」とカタカナで書いて
しまった。大失敗である。外来語はカタカナで書きなさいと教えている日本語教師
としては正に失態である。日本の友人などへのメールには「サクラ」と書いたりしている
ので、彼のメールにもついうっかり「サクラ」とカタカナで書いてしまった。反省しきりである。
もちろん日本人からこんなこと指摘されたことはないのだが・・・。

しかしどうしてカタカナで書くのか・・・と改めて聞かれると正直なところ自分でもよく
分からない。何となく漢字の「桜」でもなく、ひらがなの「さくら」でもない何か違う
「サクラ」を表したかったような・・・。「日本の桜」ではなく「外国のサクラ」を強調した
かったような気がする。日本人であればこの微妙な違いは何となく分かってもらえる
ような気もするが・・・、しかし日本語学習者には無理難題でとてもややこしい。

コンピューターの時代になりE-メールや携帯電話のメール、そしてブログなどが
大はやり、時代の変化とともに「文章を書く」というよりは「文章を打つ」ことが非常に
多くなった。そんな中で表記にも大きな変化が見られる。どこの国の言語でも同じだと
思うが、特に日本語は「話し言葉」と「書き言葉」に大きな違いがある言語だけに
その変化も特別大きいような感じがする。

それはメールでの交信がこれだけ一般化してくるとメールにも自分の特徴を出して、
そしてより会話に近づけたい願望から表記にもいろいろ工夫を凝らすようになってきた
のでは・・・。正に(笑)マークや絵文字の使用などもその例だし、この「カタカナ」表記も
なかなか効果的なのであろう。

確かに「ひろしま」と「ヒロシマ」では受ける感じが違うように思える。もちろん個人差も
あるが、「ヒロシマ」には何となく被爆の都市をイメージする人が多いのでは・・・。
また例えば普通は「そんな訳で・・・」と書くところを「そんなワケで・・・」とカタカナにすると
ちょっとおどけた感じがする。正当な理由ではない場合、「そんなワケで、ごめんネ」
などと書くことによって何となく軽い雰囲気を出しているのであろう。

さらに「こんにちは」であるが、これをカタカナで表記した場合は「コンニチハ」よりは
「コンニチワ」のほうが読みやすい感じがする。するといつの日かひらがな表記も
「こんにちわ」になってしまうかも・・・。

携帯電話も若者の間ではすでに「ケータイ」になっているとのこと。これからますます
ケータイ通信が増えるにつれて、「カタカナ表記」に目くじらを立てるよりは見直さな
ければならないような気がする。

「さくら」をカタカナの「サクラ」と書いてしまって、生徒から指摘された情けない
日本語教師の「イイワケ」としてこんなことを考えてしまった。



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