矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 83


☆ 「いただく」と「くださる」の違いは・・・

日本語の挨拶言葉はもちろんたくさんあるが、例えば「ありがとう」や「さようなら」などの
挨拶言葉は日本語を勉強し始めた学習者は何となくすぐ覚えてしまう。しかし
「いってきます」や「おかえりなさい」そして「いただきます」や「ごちそうさま」などは覚えるのに
苦労する学習者が多い。正に挨拶言葉は文化そのものであり、自分の国に日本と同じ
文化がある言葉は簡単だが、自分の国にない言葉は学習者にとってとても大変である。

日本語教師としても大いに注意が必要である。「あいさつ」は文化の結晶といっても
過言ではなく、同じ文化を持たない国の言葉には訳せない。例えば「いただきます」や
「ごちそうさま」などは英語には訳せないし、また訳す必要も全くない。「いただきます」は
食べる前に言う言葉ですよ・・・、で十分である。確かに学習者は「いただきます」の言葉
の意味はよく分からないのだが・・・。

しかし敬語を学び始めて、「食べる」や「飲む」の謙譲語が「いただく」と分かるとなる
ほどね・・・だからごはんを食べる前に「いただきます」ですか、素晴らしいですね、とすごく
納得してくれる。正にへりくだって感謝の気持ちを表す挨拶である。敢えて英語に訳すと
Thank you」あたりが無難なのかもしれない。

この「いただく」は「くださる」と絡んで我々日本人にとってもややこしい。「いただく」は
「もらう」の謙譲語でもあるし、「くださる」は「くれる」の尊敬語である。ビジネス敬語講座の
中でよくこんな質問を受ける。デパートなどで「ご来店いただきまして・・・」と「ご来店
くださいまして・・・」はどう違うのか、である。文法的にはどちらも間違いではないが、
あまり気にしたことはない。でも確かにかなりの「違い」がある。

もしこの表現を敬語抜きで言うと、「ご来店いただきまして」は「店に来てもらって」に
なり、「ご来店くださいまして」は「店に来てくれて」である。敬語表現で言うと分かりに
くくなってしまうが、この「もらう」と「くれる」であれば違いはすぐ分かる。一例として女性に
「彼がプロポーズした」ことをこの「もらう」と「くれる」で言ってもらうとすれば、仮にそうでも
「彼にプロポーズしてもらった」とは意地でも言わず、「彼がプロポーズしてくれた」と言うで
あろう。我々日本人はこの「違い」を意識してちゃんと使い分けているのである。

冒頭の「ご来店いただきまして」は「お客さまに来てもらう」という感謝の意を表しており、店のほうから依頼した場合にはふさわしい。一方「ご来店くださいまして」は「お客さまが
来てくれた」の尊敬語であり、お客の自らの行為そのものに強い敬意を表している言い方
である。

やはりデパートの店内放送としては「ご来店くださいまして誠にありがとうございます」の
ほうがすっきりする。最近は何でも「いただきます」を使う傾向にあるようだが、「お客さまが
来ていただきました」や「粗品は受付でいただいてください」などは大間違いなので
要注意である。

お歳暮シーズンたけなわ、デパートの店内放送がすごく気になる。でもここバンクーバー
のデパートではこんな放送はほとんどない。日本の過剰とも思えるあのサービスがやたら
懐かしい・・・。



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