矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 76


☆ 「いい」はとてもいくない・・・?

 まずこんな会話を・・・「この家具なかなかいいね、買おうか」「ホント色もピッタリ・・・ でもいい値段だね、やめとこう」。日ごろよく使う当たり前の会話であるが、でも日本語 学習者にしてみれば確かにちょっと分かりにくい。「いい家具」と「いい値段」どちらも 良いのに・・・うーん、「いい」にはいろいろな意味の使い分けがあるのでややこしい。

 そしてこの「いい」は正に日本語教師泣かせの形容詞である。まず我々日本人は 「良い」と漢字で書いてあれば「よい」と読みたくなってしまう。しかし「です」をつけて 「良いです」となると「よいです」よりは「いいです」のほうが自然である。

  ここで困ったことが・・・。普通「おもい」や「かるい」などの形容詞の否定形の 作り方は「い」を「くない」に変えると教えている。「おもいです」は「おもくないです」である。 すると「いいです」は当然「いくないです」になってしまう。うーん・・・「いくないです」は あまりよくないです・・・どうして・・・。学習者の戸惑いもよく分かる。「良い」は 「よい」で、「良いです」は「いいです」、そして否定形は「いくないです」ではなくて 「よくないです」。こんなこと日本人にしてみればごく当たり前のことだが・・・、ホント この「いい」という言葉を教えるのはいい歳した日本語教師としてはいろいろ大変である。

  そしてまだまだ面倒なことが・・・。よく「おいしい」などに「そう」をつけて「このラーメンは おいしそう」などよく使う。これを教えるときは「おいしい」の「い」を取って「そう」を付けると 説明している。「重い」は「重そう」で「軽い」は「軽そう」となり、「このカバンは重そうです」 である。すると「この家具は良い」の「よい」は「い」を取って「そう」を付けるのだから 「よそう」となり「この家具はよそう」になってしまう。うーん・・・「よさそう」と教えなければ・・・。 日本人は習った記憶などないがなぜかちゃんと「さ」を入れて「よさそう」といえる。 でもどうして「さ」が入るのか・・・。「もうやだァー、日本語の勉強なんかよそう」、 生徒さんのこんな声が聞こえてきそうである。

  このように「よい」や「ない」などの短い2音節の形容詞は「そう」を付けるときは 「よさそう」や「なさそう」のように「さ」が入りますよと説明しているのだが、ある上級者から 「こい」「うすい」の「こい」も同じですかと質問がきた。なかなか鋭い質問である。確かに 「濃さそう」も「濃そう」も使えそうで・・・「よそう」や「なそう」はダメなのに・・・、 困ってしまった。いろいろ例外もあるし、あまりそんなこと気にしなくていいですよと 答えるのが精一杯であった。

  更にこの「よい・いい」だが漢字が絡んでくると更にややこしい。例えば「あの人は よい性格だ」を漢字で書くとすると、「良い」か「善い」かどっち・・・。これもどっちでも よさそうだが、辞書などには道徳的な意味で使う場合には「善い」となっており、 「あの人は善い性格だ」が正解とされている。確かにこの「善」は善人とか善意などに 使われており道徳的な「善悪」でる。しかし「あいつはいいやつだ」などは「良い」でも 良さそうだし、この場合はひらがなのほうが間違いなくぴったりする。結局「いい」と 読ませたい場合はひらがなで書くのが一番いいのでは・・・。


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