矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 74


☆ 「町中」の読み方は・・・?

日本語教育において漢字を教えるのは大変である。なにしろ日本語には三種類の文字があるので・・・。まず「ひらがな」を覚えてもらわなければならない。そして「カタカナ」もとても大事である。やはり「びいる」などと書いてあれば飲みたくない。「ビール」とカタカナで書いてなければ・・・。そして漢字である。確かに学習者にとって漢字はなるべく避けたい・・・多くの学習者にはそんな態度が見え見えである。確かに学習者の気持ちはよく分かるが、日本語における漢字の役割は大きく、上級レベルになるにはどうしてもある程度の漢字習得は必須である。

こんなフレーズを思い出した。「きしゃのきしゃはきしゃできしゃした」である。ひらがなで書いてあると一度ではどんな意味だかよく分からないが漢字で書くと・・・、「貴社の記者は汽車で帰社した」であればすぐ分ってしまう。表意文字の漢字が持つ素晴らしさであり、日本語学習者にも何とか漢字に親しんでもらおうといろいろ苦労するところである。

そんな学習者から漢字に関してこんな愚痴をよく聞く。「どうして一つの漢字にいろいろな読み方があるんですか」である。その最たるものは「生」である。「生きる」「生む」「生活」「芝生」そして「生ビール」と「生一本」など・・・ナント地名などを入れたら100以上の読み方があるとのこと。日本人にとってもややこしい。また中級レベルになると漢字の数も増えてきて例えば「道」と「路」の違いなど・・・教師としてもいろいろ大変である。そしてこんな質問を受けた。初級で「町」という漢字を習い中級になって「街」という漢字が出てくる。同じ「まち」、当然「その違いは何ですか・・・」である。なかなか厄介である。我々日本人でも「町並み」か「街並み」か・・・また「町のあかり」か「街のあかり」か迷うのでは・・・。しかし「学生の町」と「学生の街」では何となく「街」のほうが馴染めるし、「下町」は絶対「下街」とは書かない。でもなぜ。確かに「違い」は感じるのだが説明するとなると難しい。

生徒には「町の中のにぎやかなところが街ですよ」と教えている。「町」は村などと比べるものであり、「街」はビジネス街や商店街などのように「がい」とも読んで「通り」を表すもので、町の中心地である。だから街路灯やビルのあかりなどをイメージする場合は「街のあかり」のほうがふさわしいのでは・・・。また読み方も複雑である。「街角」は「まち」だが「街頭」は「がい」。生徒は大変である。そしてもっと大変なのが表題の「町中」である。「町中で火事があった」はどう読むか・・・「まちなか」か「まちじゅう」かでかなり意味が違ってしまう。「町中で恥をかいて町中の話題になった」これらにはちゃんとふり仮名をつけたほうが良さそうである。

ところで英語の「downtown」は日本語でなんと言うか・・・。「街」を使った「繁華街」
などが当てはまりそうだが日常会話で「繁華街に行ってきます」は何となくピンとこない。
でも「ダウンタウンに行ってきます」はよく使う。ぴったりする日本語がない粋な言葉で
ある。ある上級者が「下町」がピッタリですよね。なかなかユーモアあふれる粋な生徒である。


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