矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語69


☆ 「いえ」と「うち」の違いは・・・?

 日本語教育において「うち」という言葉を教えるのには一苦労する。この「うち」は いろいろな使い方があるので学習者が戸惑ってしまうのもうなずける。そしてこんな 質問もよく受ける。「いえに遊びに来てください」と「うちに遊びに来てください」はどんな 違いがありますか・・・である。確かに日本人は「家」という意味で「うち」という言葉をよく 使っている。しかしその違いなどほとんど気にしたことはないが、学習者はとても気になる。 「うち」と入力して変換すると「内」、「中」そして「家」という漢字も出てくるので生徒さんは 困ってしまう。「家」という漢字を「うち」と読むんですか・・・。うーん、初級レベルでは 「家」は「いえ」と教えているのでこちらも困ってしまう。

 しかし改めて「いえ」と「うち」の違いを考えてみると、我々は確かに何となく使い分け ている感じがする。上記の「いえに遊びに・・・」と「うちに遊びに・・・」の違いだが、多くの 日本人は「うち」は親しい人に言うような場合に、一方「いえ」はちょっとかしこまった感じ が・・・、もちろん個人差や方言なども絡んできそうだが、年齢や親しさなどによっても 使い分けているようで・・・。また「いえ」は建物そのものを表し、「うち」は家庭を表す 感じで、ちょうど英語の「house」と「home」と同じようにも思える。

 しかしそんなこと初級レベルの生徒には難しい。この場合は「いえ」も「うち」も同じ ですよと教えている。そしてもうひとつ「うち」には大事な使い方があります。「うちの家族」 や「うちの会社」など「私の〜」という意味があり、全てひらがなで書いてくださいと説明 している。これに関して上級者からこんな質問を受けた。「ぼくんちに来ない」とか 「田中さんちはどこ」など会話でよく聞きますが、この「ち」は何ですか・・・である。こんな ことほとんど意識したことはなかったが確かに使う。そーねー。これは「ぼくのうち」や 「田中さんのうち」を言いやすくするために短くしたもので親しい人によく使いますよと 説明している。なるべく早いうちに教えないと・・・「うち」はホントややこしい。

 さらにこれと同じような質問で「店」と「屋」の違いは何ですか・・・がある。思いも よらない質問である。確かに「喫茶店」はいいが、「喫茶屋」とは言わない。逆に 「パン屋」や「うどん屋」はいいが、「パン店」や「うどん店」は馴染めない。すると確かに 「店」と「屋」には何らかの違いがありそうだが、「書店」と「本屋」の違いはといわれても・・・。 これまた「うーん」である。そんなことどうでもいいからと怒りたくもなるのだが、でもちょっと 気になる。

 これも「いえ」と「うち」の違いと同じように、「店」のほうがちょっとよそ行きの感じがする のでは・・・、そして「屋」は「うち」と同じように親しみを感じる。「本屋」は駅前のなじみの 本屋であり、「書店」は大きな「○○書店」を想像してしまう。まして酒なども「酒店」 よりやはり「酒屋」のほうがしっくりするので「居酒店」でなく「居酒屋」を用いるのであろう。

 こんなこと教わった記憶はないがやはり母語として生まれながらに身についているので あろう。日本語教師として日本語を外から眺める重要性を体のうちから強く感じる 次第である。


 
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