矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語66


☆ 「見る」と「観る」

サッカーW杯も無事終了。サッカーが大好きな日本語上級者と一杯飲みながら サッカー談義に花が咲いた。さすが上級者である、「イタリアが優勝するとは想定外 でした」と今はやりの「想定外」などの単語を巧みに使って会話が始まった。大した ものである。そしてこんな表現も・・・「フランスは予想以上の活躍でしたが、日本は 予想以上の不振でしたね」である。うーん、「予想以上の活躍」はいいのだが「予想 以上の不振」には違和感があり、その表現は良くないですよと注意した。そしてこんな 質問が・・・「予想以上の活躍」はいいのに「予想以上の不振」はどうしてダメなんです かと改めて聞かれると困ってしまった。

確かに「不振」のような良くない言葉には 「予想以上」は使わず日本語としては「予想に反して」とか「予想外の不振」などの 言い方をする。良い状況を表現するときだけ「予想以上」を使ってと教えた。例えば 「予想以上の好天気に恵まれて・・・」などである。しかし悪い状況でも例えば 「予想以上の混雑だった」などは使えそうで・・・、なかなか微妙で日本語はややこしい。

また表題の「見る」と「観る」の漢字も話題になった。彼はテレビでほとんどの試合を みたとのこと。この場合「テレビを見ました」それとも「テレビを観ました」か・・・どっちが ふさわしいのか・・・。日本語教育では最初は「見る」の漢字を教える。そして通常は 使い分けなどせず全て「見る」を使って問題ないのだが、「観」の漢字を導入する 頃にはやはり「見る」と「観る」の違いはぜひ教えたい。芝居や映画などはやはり 「観る」のほうがふさわしい。「じっくりテレビドラマを観る」と「テレビを見ながら食事をする」 の違いですよ・・・である。手に汗を握りながらサッカーの試合をみたのだから、この場合は 「テレビを観ました」のほうがふさわしい。

するとこんな質問がきた。ときどき大事な シュートの場面を見逃してしまったんですが、この場合「見逃す」はじっくりみてたの だから「観逃す」のほうがふさわしいですよね・・・。うーん、なかなか手ごわいそして おもしろい質問である。こんなこと考えたこともないが・・・。もちろんこの「観逃す」は 辞書には出ていないがひょっとすると将来使われるかも・・・。「観察」や「観戦」という 漢字があるように、確かに「観る」にはじっくりみるというニュアンスがあり、日本人 としては「見る」と「観る」の違いに大いにこだわりたいものである。

そしてそんな彼に「鑑賞」と「観賞」の違いを教えたくなり、早速日本語講座が 始まった。「映画を観賞する」など別に問題はなさそうだが・・・。しかし「観賞」は 眺めて楽しむという意味でありその対象のものはやはり自然の風景や草花であろう。 「オーロラ観賞」や「蛍を観賞する」などである。一方「鑑賞」の「鑑」には「見分ける」 という意味があり、芸術作品のようなものの場合に用いる。庭の松は「観賞する」だが、 盆栽の松は「鑑賞する」である。履歴書の趣味などはやはり「映画鑑賞」と書かねば ならない。しかしオーロラの学者なら「オーロラ鑑賞」もいいのでは・・・。でもそんなこと あまり「干渉」したくないですね、学習者のシャレが聞こえてきそうである。


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