矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語65


☆ 「先日」はいつなの・・・?

 日本語教育において漢字を教えるのはいろいろ大変である。多くの学習者は 漢字を見ただけで拒絶反応を示す。そんな生徒にいかに漢字を楽しく学ばせるか・・・。 しかし中には漢字が大好きな学習者もおり教師として何となくホットするのだが、 そんな生徒に限って漢字に関する厄介な質問をしてくるので困ってしまう。先日も やや冗談交じりに「先生、週は先週、今週、来週ですよね。月も先月、今月、来月 ですから、年も先年、今年、来年のほうがいいのでは・・・」である。

最初は何を言って いるのかよく分からなかったが、確かに漢字から判断すれば先週、先月であれば先年 である。しかしどうして「先年」と言わず「去年」というのか・・・。上のルールを当てはめると 漢字的には「先年」のほうが確かに理にかなっている感じが・・・。こんなこと我々 日本人は考えてみたこともないのだが・・・困ってしまった。

 そしてもっと困った質問がやってきた。表題の「先日」である。「先週」がすぐ前の週、 「先月」がすぐ前の月なら「先日」はすぐ前の日ですよね。どうして日には「先日、今日、 来日」の漢字を使わないんですか。そのほうが分かりやすいのに・・・。うーん。参って しまった。日は「昨日、今日、明日」である。どうしてと言われても困るのだが・・・。 もちろん日本人は「先日」は「昨日」の意味には使わない。まして「来日」などは全く 別の意味の「日本に来ること」になってしまう。でも来週、来月はちゃんと次の週、 次の月の意味に使っているのに・・・。確かに漢字に興味のある学習者は特に混乱 してしまいがちである。

 また漢字の読み方もややこしい・・・。漢字を習い始めの頃よく出る質問に「一」の 読み方がある。例えば「一人」と「一名」である。日本人は自然に「一人」は「ひとり」で 「一名」は「いちめい」とちゃんと読めるが確かに学習者にはややこしい。覚えてもらうしか ないのだが・・・。しかし日本人にとってもこの「一」に関して結構判断が難しいものもある。 例えば「一段落」である。会話において「一段落したらお茶にしましょう」などと使うが、 この場合「いちだんらく」かそれとも「ひとだんらく」か・・・。日本人に尋ねてみると 「ひとだんらく」と言っている人のほうが多いような気がする。どっちでもいいと思うのだが・・・、 でも辞書には必ず「いちだんらく」となっており「ひとだんらく」は出ていない。どうも 「いちだんらく」が正解である。でもどうして・・・。

 確かに何となく違いは感じる。「一安心」や「一工夫」は「ひとあんしん」などと「ひと」と 読んでいるが、「一芸」や「一面識」は「いちげい」などと「いち」を使っている。我々は 何となく使い分けているのである。こんな説明をしている。「安心する」や「工夫する」 ような動作を表すような言葉が後に来る場合は「ひと」を使い、後に「芸」や「面識」 など動きを感じない言葉の場合は「いち」を用いる。するとやはり「一段落」は 「いちだんらく」のほうが良さそうである。事実両方使える「一押し」などはその違いが よく分かる。「いちおし」と「ひとおし」の使い分けである。生徒には「一押し(いちおし)の この教科書を使って、もう一押し(ひとおし)日本語の勉強頑張って・・・」と 教えたいのだが・・・。


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