☆ 「ひらがなが主役」 ①
日本語教育において「行く」の読み方は当然「いく」と教えている。「学校に行きます」
は「ゆきます」ではなく「いきます」である。しかし中級レベルになるといろいろややこしい
問題が出てくる。例えば「行く春」や「行方不明」などは「ゆく」のほうが自然である。
確かに我々日本人は「いく」と「ゆく」を両方見事に使い分けている。でも「その違いは
何ですか」と質問されるとなかなか困ってしまう。実際「消えゆく言葉」や「変わりゆく
日本語」などは「いく」はなじめないし、漢字の「行く」も使いにくい。でもなぜ・・・。
漢字の「行く」は何となく「いく」と読みたくなる。また個人の語感にもよるが、「ゆく」は
改まった感じの古い言い方で、「いく」は口語的な軟らかな言い方といわれている。
やはり本などのタイトル例えば「竜馬がゆく」などはやはりひらがなの「ゆく」がぴったりする。
そこで生徒には「行く」は先ず「いく」と覚えてください。そして「ゆく」は特別なときだけ
使いますよと教えている。「行き先」も昔の人は「ゆきさき」と言っていたようだが、現在は
「いきさき」が優勢では・・・。
次に表記の問題が絡んでくる。例えば「勉強して行く」や「飲んで行く」などの「行く」は
「ひらがな」を使うほうが良いとされている。いわゆる「行く」本来の意味として使う場合は
いいのだが、「飲んで行く」の「行く」は補助的な使い方なので、この場合は「飲んでいく」
のひらがな表記のほうがすっきりする。
この代表例として「見る」という動詞である。「テレビを見る」はもちろん漢字を使った
ほうが分かりやすいが、「着て見てください」は違和感を感じる。やはりこの場合も「見る」
本来の意味は少なく、ひらがな表記で「着てみてください」のほうが簡潔である。
また、「下さい」も同じようなことが・・・。学習者もこれくらいの漢字は知ってますよ
とばかり「下さい」を使いたがる。しかし「これを下さい」であれば漢字を使ったほうが
いいのかもしれないが、「お許し下さい」などは・・・、決して間違いではないが、「お許し
ください」のほうが増えている。補助的な意味に使う動詞の表記は漢字など無理して
使わず、ひらがなを使いたい。「ひらがな」あんたが主役である。ちょっと読みにくいと
感じる方も・・・、でも「ひらがな」のほうが何となく簡潔さや軟らかさを感じる方が多い
のでは・・・。「ひらがな表記」の効果である。
いくつか例を挙げると「置く」なども「冷蔵庫に入れて置く」よりは「入れておく」のほうが
いい感じが・・・。上記の「漢字を使ったほうがいいのかもしれない」も上級の生徒は
「知れない」と漢字を使いたがるのだが、この「~かもしれない」は一つの言葉として
ひらがなで書くことを教えている。
また「致す」に関してはビジネス敬語講座の生徒からもときどき質問を受ける。
ビジネス文書などで「お伺い致します」や「ご一緒致します」はダメですかである。やはり
この「致す」は「する」の謙譲表現あり、何となく軟らかな感じを出すようにひらがな
表記のほうがいいのでは・・・、そのように指導している会社が多い。「ひらがな」は
軟らかさの秘訣である。
尚(なお)、次回も題は「ひらがなが主役」です。この場合、「尚」それとも「なお」
どっちがいいの・・・。
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