矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語62


☆ 「男っぽい」は男それとも女・・・?

日本語教育においてこの「〜ぽい」はなかなか厄介である。特に最近若者を中心に この「〜ぽい」の使用頻度が高まっており、日本語学習書もよく耳にするので思いも かけない質問がくる。

この「〜ぽい」は「多い」が訛ったものだと昔日本語教師養成講座で習った。例えば 「水多い」が「水っぽい」である。いろいろな言葉にくっついてその性質や特徴を多く有し ていることであり、「骨っぽい」「埃っぽい」、更には「忘れっぽい」や「安っぽい」などで、 何となくマイナスイメージの言葉が多い。しかし確かに「大人っぽい」や「子供っぽい」も マイナス的だが、「男っぽい」や「女っぽい」などはプラスの評価も感じられ、なかなか 一筋縄ではいかない。

ここで更に難しいのが「らいし」との比較である。こんな質問をよく受ける。「春らしい 天気」と「春っぽい天気」はどう違いますか・・・である。昔は「春っぽい天気」などの表現は ほとんど聞いたことはなかったので、生徒にはあまり教えたくないのだが・・・。でも最近は 若者同士の会話ではこんな言い方がよく使われているので、どちらもほとんど同じ意味 ですよと教えている。するとこんな質問が・・・。「このラーメンは水っぽい」と「このラーメンは 水らしい」は同じですか・・・。うーん、困ってしまった。確かに「子供」や「春」などは 「〜らしい」も「〜ぽい」も両方使えるのに、「水」や「骨」などは「〜ぽい」しか使えない。 なぜと言われてもなかなか説明しにくい。決まり文句として覚えてください・・・である。

ここで表題の「男っぽい」だが、これも「男らしい」と同じ意味として考えてよさそうである。 しかし「男らしい」は間違いなく「男」にしか使わないのでは・・・。でも「男っぽい」は「男」と 「女」両方に使える。「彼は男っぽいね」と「彼女は男っぽいね」である。また「男っぽい字を 書く」の書く人はやはり女性のほうが自然である。それから「彼女は男らしい」も使えない ことはないが、変な誤解を招きそうで・・・、これは「らしい」のもう一つの違った用法「推量」 と絡んでくる。

更に「男らしい」や「女らしい」は必ずプラス評価に受け止められるが、「男っぽい」 「女っぽい」は必ずしもプラスイメージだけではないような感じが・・・。やはりこの「〜ぽい」は 本来はマイナス評価の言葉にしか使わなかったような気がする。また色に関する 「白っぽい」や「青っぽい」なども、例えば「この絵はすこし白っぽい」はやはりマイナス評価 であろう。しかし「犯人は白っぽいセーターを着ていた」には別にマイナスイメージはなさ そうだが・・・、しかし上司やお客様に対して「白っぽいセーター」は何となく使いにくく 感じるのでは・・・。やはり犯人という悪いイメージだから使いやすいのであろう・・・。

この「〜ぽい」は確かに会話などではなかなか便利な言葉であり、若者の間では遊び 感覚も手伝ってどんどん広がっているっぽい。「ここは渋谷っぽい」や「明日は雨っぽい」 など、更には「宿題を忘れちゃったぽい」とか「日記を親にみられたっぽい」など「みたい」の 代わりに「ぽい」がどんどん幅を利かせている。日本語教師としてやはりそのような俗っぽい 「ぽい」はゴミ箱にポイと捨ててほしいのだが・・・。


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