矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語60


☆ 「何色」は「なに色」か「なん色」か・・・?

「お正月はどうでしたか、何を食べましたか・・・」「おもちは何個食べましたか・・・」  年明けの授業はこんな会話からスタートする。日本語学習者にしてみればごくやさし 会話である。しかしちょっとややこしい問題を含んでいる。いわゆる「何」の発音である。 我々日本人は別に気にしたこともないのだが、日本語学習者にはとても気になる。 「何」の読み方は「なに」かそれとも「なん」なのか・・・。確かに「何を食べたか」の場合は 「なに」であり、「何個」の場合は「なん」である。そんなこといちいち気にしなくても・・・ でも確かに2通りの読み方があるので気になる。

実際「今日は何曜日ですか」の場合、「なにようび」も「なんようび」もどちらも言える。 どう違うのかと聞かれても困るのだが、なんとなく「なんようび」のほうが言いやすいので 多くの人は「なん」を使っているのでは・・・。昔こんな質問をされたことを思い出した。 「SFUは何の略ですか」の場合は「なに」と「なん」とどちらがいいですか、である。考えた こともなかったが、「どちらでも発音しやすい方でいいですよ」。でも確かにちょっと違いも・・・、 「なに」の方がフォーマルで、「なん」は少しくだけた感じがする。

しかしこの「何」の発音はそう簡単に一筋縄ではいかないものもあるので厄介である。 一例として「何県」である。「なにけん」とも「なんけん」とも両方読めるが、読み方で意味が 変わってしまうのでややこしい。でも我々日本人は文脈から容易に判断できるので、 さほど問題ではない。例えば「ご出身は何県ですか」であれば「なにけん」と発音し、 どこの県なのかの質問であり、「東北地方には何県ありますか」であれば「なんけん」と 発音して、いくつ県があるかの質問だとすぐ分かるのである。しかし学習者にとってこれは とても難しく教えるのもかなり大変である。

こんな教え方をしている。「なに」は「どんなもの」か質問するときに使います。ですから 「何人」を「なにじん」と読ませてどこの国の人なのか・・・という意味になり、一方「なん」は 「いくつ」という数を質問するときによく使うので「何人」を「なんにん」と読んで人の数を 聞いている意味になりますよ、である。「彼は何人ですか」と「教室に何人いますか」の 違いである。簡単な文を覚えてもらうのが早道なのだが・・・。

しかし日本人でも判断し難い単語がある。表題の「何色」である。例文として「この ボールペンは何色ですか」はとても困ってしまう。もちろん「なにいろ」とも「なんしょく」とも 読めるのだが・・・、この文からだけでは簡単に判断出来ない。「なにいろ」と読めば 「黒です」と答えるのだが、「なんしょく」と読めば「黒と赤の2色です」になってしまう。 日本語教師としてこの例文には難色を示したくなってしまう。

また「何年」も困ってしまう。確かにコンピューターに「なにどし」と「なんねん」と入力しても どちらも「何年」という漢字に変換される。人に歳を聞くのは失礼だが、せめて「干支」 ぐらいはいいだろうと、E-メールに「何年(なにどし)生れですか」と書いたところ、相手が 「何年(なんねん)生れですか」と読んでしまったら、「失礼ね」と怒られてしまうかも・・・。 この「何」はなるべく「ひらがな」を使うほうが良さそうである。


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