矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語59


☆ 「師走」は「しはす」か「しわす」か・・・?

 日本語上級者はやはり日本食も大好きである。実際「納豆」が食べられるようになれば日本語もうまくなると信じて納豆を頑張って食べたすごい生徒もいる。そんな日本料理 大好きさん達と忘年会を行なった。場所はもちろん日本食レストランである。先ずはお酒の ツマミにいつもの「ほうれんそうのおひたし」と「揚出し豆腐」を注文する。そしてすぐウエート レスが「おしたしです」と持ってきてくれた。ここでちょっと質問が来た。「おひたし」と「おしたし」はどちらが正しいんですか、である。メニューには「おひたし」と書いてあり注文も「おひたし」と いったのに・・・、でも確かに「おしたし」と聞こえた。

こんなことは別に気にする必要ないよといいたいところだが日本語学習者にはとても気になる。何とか説明しなければ・・・。この言葉は「浸しもの」から出来たものなので表記は「おひたし」が正しいですが、「ひ」と「し」の発音が混じってしまういわゆる「訛り」がある人もいるので・・・、でも標準語は「おひたし」だから皆さんは「ひ」と発音してください。例えば「ひとつ」を「しとつ」と発音する人(ひと・しと)もいますけれど・・・、でもあまり気にしないで・・・である。

確かに発音に関していろいろ調べると我々日本人にとっても結構ややこしい。代表例と して「すみません」と「すいません」がある。文法的には「すみません」が正式であるが、 「すいません」もよく耳にする。「い」のほうが発音しやすいからであろう。ちょっと誰かに呼び かけるときなどは「すいませーん」のほうが自然な感じがする。これに関してこんな話が・・・、 「タバコ吸いますか」の質問に対して「はい、吸います。すいません」これでは何だか意味が よく分らずどっちかはっきりしろよといわれそう・・・。この場合はやはり「すみません」でないと 困るのである。やはり生徒には「すみません」を教えたほうが無難である。

さて表題の「師走」だが、漢字の成り立ちは先生が忙しく走るから「師走」だと習った ような気がする。実際語源的にはいろいろな説があるが、師匠の僧侶がお経をあげるために「馳せる(走る)月」と解釈して「師馳す(しはす)」だとする説が一般的である。すると正式な 読み方は「しはす」なのでは・・・。しかし辞書を調べてみると「しはす」も「しわす」もどちらも 良いことになっており、別に気にすることもなさそうだが、放送関係では「しわす」を使って いるので、何となく耳馴れており、生徒には発音しやすい「しわす」を教えたほうが良さ そうである。

年が明ければ間もなく寒の入りそして一番寒い日とされる「大寒」がやってくる。さて これの読み方は「だいかん」それとも「たいかん」か・・・。これもどちらでも良さそうなのだが、 これはそうはいかない。「だいかん」でなければならないのである。しかし同じ二十四節気の 「大雪」は今度は「だいせつ」ではなくて「たいせつ」である。

これは「大切な決まり」だから覚えなければ・・・。いやはや日本人にとってもややこしいので あるから、学習者からは「先生、超むずかしいよ」の声が聞こえてきそうである。 この「先生」も表記は「せんせい」だが、「せんせえー」と発音されたほうが何となくうれしく なってしまうのも微妙に不思議である。


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