☆ 「食べることが好き」と「食べるのが好き」
日本語教育において自己紹介の指導はなかなか難しい。誰でもなるべく格好よく
言いたいのは当然であり・・・。しかし初級レベルでは残念ながら単語力に限りがあり、
なかなか言いたいことが述べられない。特に「自分の趣味」などをちょっとうまく表現し
たいと思うのだがなかなか難しい。最初は例えば「私の趣味はゴルフです」などと簡単な
単語を使った簡単な文を教えなければならない。
しかしすぐに問題が出てきてしまう。スキーやテニスならいいのだがアイスホッケーと
なるとちょっとややこしい。特に女性の生徒が「私の趣味はアイスホッケーです」というと
意味が分りにくくなってしまう。本人は観戦する事を言いたいとしたら・・・。「観戦」など
という単語はまだまだ難しい。するとやはりかなり初期から簡単な動詞を使った
「〜をみること」や「〜をすること」の言い方も教えなければならない。「アイスホッケーを
みること」と「アイスホッケーをすること」である。この言い方を導入すると表現力がどんどん
広がる。例えば「私の趣味はケーキです」ではなくて「ケーキを作ること」といえるようになる。
また「私の趣味は日本語を話すことです」などとちょっと気取った表現が言えるようになり、
動詞の勉強にも励みが出てくる。
そして中級レベルになると会話などでも「ケーキを食べることは好きですが、作ることは
嫌いです」などなかなか格好いい表現が出来るようになる。しかしここでちょっと恐い
質問が待っている。表題の「食べることが好きです」と「食べるのが好きです」はどう
違うんですかである。いわゆる「こと」と「の」の違いであり、確かに我々日本人は両方
気楽に使っているが違いなどほとんど考えたことはない。でも違いは確かにある。例えば
「プールで泳ぐことが好き」と「プールで泳ぐのが好き」は両方使えるが、「太郎がプールで
泳いでいることを見た」とは言わず、「太郎がプールで泳ぐのを見た」になってしまう。我々
日本人はちゃんと使い分けているし、「こと」と「の」に何か違いがあるのは間違いない。
さてその違いは・・・。
先ず「の」は話し言葉や感情表現などによく使われる。「僕はプールで泳ぐ(こと/の)
が好きです」は確かにどちらも使えて違いはあまり感じないが、「プールで泳ぐのが大好き
だよ」のように話し言葉で自分の気持ちを表す場合は「こと」より「の」のほうが自然である。
だから「見る」や「聞く」そして「感じる」など感覚を表す動詞がくる場合は「の」を使って
いる。「太郎が英語で話しているのを聞いた」や「ハロウィンも終わってだんだん寒くなる
のを感じる」である。やはり「だんだん寒くなることを感じる」とは言わない。
一方、「こと」は書き言葉や客観的な表現に用いる。「年末イエローナイフに行く (こと/の)を計画しています」はやはり「こと」のほうが自然である。「来月バンクーバーに
出張することになった」であり、「の」は使えない。また「芝生に入ることを禁じる」も「こと」 でなければ落ち着かない。しかし「芝生に入るのはダメよ」などは「の」のほうがふさわしい。
硬い表現か柔らかい表現かでも異なってくる・・・。しかしこの違いは学習者にはなか なか難しい。この違いを理解してもらう(こと/の)は大変である。
この場合は「こと」か「の」かどっちがいいの・・・?
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