矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語53


☆ 「4時」はどうして「よじ」なの・・・?

 新米教師のころ「1から10まで数える場合と10から1に戻る場合とどうして言い方が変わるんですか」と質問されてびっくりしてしまった。最初は何が変わるのかさえ分らずキョトンとしていたのだが、確かに注意して発音してみると「4」と「7」と「9」が微妙である。特に「4」は大部分の日本人は変化するのでは・・・、いわゆる「いち、に、さん、し、ご」だが、「ご、よん、さん、に、いち」である。この変化を当時40半ばにして初めて気がついたのであるから、急に「どうしてですか」と質問されても・・・ホント困ってしまった。確かに英語は決して変わらないのに・・・。

  この「数字の数え方」は初級レベルでは「挨拶」などとともに重要なものであるが、この質問が良い経験になって「数字」を導入する場合には必ず「4」は「よんorし」、「7」は「ななorしち」、そして「9」は「きゅうorく」と二つの言い方がありますよと最初から教えている。もちろん数字を数えるときは「40」や「700」、「900」などのように「よん」と「なな」と「きゅう」のほうがよく使いますよと言ったほうが良いのだが・・・。しかしそのあと月日のカレンダーを教えるときにはとても有効である。「4月」は「しがつ」だし「9月」は「くがつ」である。7月は「なな」も「しち」もどちらも使うがやはり「しちがつ」のほうが優勢であり、こちらを教えている。

  でも今度は「時間」を教えるときに大きな落とし穴が待っている。表題の「4時」である。生徒さんは当然「よんじ」と思っているのだが・・・、しかし正解は「よじ」である。「なぜ『よじ』なんですか・・・」と聞かれても困ってしまう。「そのほうが言いやすいから覚えてください」と言わざるをえない。日本人としてこんなこと考えたこともないが、日本語をちょっと外から見ると正に 「目からウロコ・・・」の連続である。

  そして最近日本語上級者とこんなことが話題になった。「銭湯」である。教材の中に出てきたのであるが、昔のお金の単位に「銭」もあったので安い「お風呂屋」のことですよと説明すると、さすが上級者であるすぐ理解して、それでは「円湯」に変えたほうがいいですねとユーモアたっぷりの反応があった。そしてここでまた数え方が話題になった。「4銭」は「よんせん」なのに「4円」は「よんえん」ではなく「よえん」である。上級者であるから「なぜですか」などの質問はなかったが、「先生、日本人でこの違いを知っている方は少ないのでは・・・」と先にいわれて、日本語教師の立場が何となく薄らいだ感じになってしまった。

  更にお金の数え方に関してこんな質問もよく受ける。なぜ1万円はちゃんと「いち」をつけて「いちまんえん」と発音するのに百や千は「いち」をつけないんですかである。こんなこと考えたこともなかったが・・・。確かに「100円」や「1000円」には「いち」などつけないが「10000円」はちゃんと「いち」をつける。でもなぜと質問されても、語呂の問題かも・・・。これは日本の位取りによる影響でしょうと教師養成講座の生徒さんが教えてくれた。確かに日本は昔は4桁の区切り方をしていたから「万」が大きな区切りであり、どうしても他と何か差をつけたかったに違いない。

日本語教師はいろいろなことに気を回さなければ、「四十肩」にも気をつけながら・・・。


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