☆ 「3階になります」はどんな意味・・・
年末年始を初めて日本で過ごした日本語上級者に日本のお正月はどうでしたと質問してみた。彼女は開口一番「日本そして日本語がますます好きになりました」とうれしい答えが返ってきた。初詣なども経験し、また写真でしか見たことなかった着物姿をあちこちで目にして日本文化の素晴らしさを感じたとのこと。確かにここカナダではお正月の気分などまるでなく、日本のあの独特の雰囲気は格別で彼女がびっくりするのも大いにうなづける。
また、お店のお客への応対の違いにも驚いたという。私もカナダに移住して丸10年、しかし依然としてまだまだなじめないものがこの接客態度である。「お客さまは神様です」を根強く感じている日本人にはここカナダの客への応対には「俺はお客だよ」と言いたくなる場面が多々あるのでは・・・。カナダで育った彼女が日本のお客さまへのサービスの素晴らしさに驚くのも容易に理解できる。
そして彼女からこんな質問を受けてしまった。あるデパートにこけし人形を買いにいき、案内の人に「何階ですか」と尋ねた。どんな返事が返ってくるか想像することも会話の勉強には大事ですよと教えているので、最初彼女は階の数字だけ、例えば「3階」かなと考えた。カナダではこんな場合単に「third floor」であろう。しかし日本の人はとても丁寧なのでたぶん「です」が付いて「3階です」ぐらいではと想像していたという。すると案内の人から「3階になります」と答えが返ってきたらしい。もちろん何階かは分かったが、この「〜になります」が気になって・・・、「これはどんな意味ですか」が質問である。難しい。思わず唸ってしまった。外国の人にこんな言い方をしなくてもいいのに・・・。せめて「3階でございます」ぐらいにしておけば彼女はとても気持ちよくなったであろうに・・・、そのデパートの人を怨みたい。
この表現いろいろ取りざたされているが、確かにサービス業などではよく耳にする。この場合「3階です」でいいのだろうが、「お客さまは神様です」の日本ではやはり少し機械的で冷たい感じがするのであろう。しかし「3階でございます」では逆に大げさすぎて硬い感じがする・・・。そこでその中間的な表現としてこの「3階になります」が登場したのではと言われている。確かにこの表現は意味的には分かりにくいが、音声面からも鼻音になるので何となく温かみと柔らかさを感じる方も多いのでは・・・。おつりをもらう場合、「300円になります」などもよく聞く。「300円です」のほうが分かりやすいが、やはりお客さまへの配慮からであろう。耳障りだという人もいるが・・・。
彼女にはこの「〜なる」は本来の「大人になる」などの意味はなく、単なるお客さまへの敬語表現なのであまり意味など気にしないでいいですよと説明したのだが・・・。実際日本人は「今度結婚することにしました」よりは「結婚することになりました」を使いたがるのも何となく自然な感じを出したい婉曲表現が好きなのであろう。すると彼女は「先生、では『今年日本語能力試験1級を受けることになりました』が自然で素敵な表現ですね」である。ホントなかなか手ごわい生徒である。
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