矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 46

☆ 「家を出る」と「家から出る」

ここはレストラン。ちょっとした集まりがあり日本語を得意とするいわゆる「日本語大好き人間」の生徒さん数名と会食をしていた。そしてある生徒さんがトイレから戻ってくるなり、突然こんな質問をしてきた。「先生、”トイレを出る”と”トイレから出る”はどう違いますか」である。トイレの前でかなり待っていてやっと前の人が出てきたときふと思いついたらしい。いわゆる「を」と「から」の問題である。初級レベルの生徒であればこの場合はどっちでもいいですよと答えたいところだが・・・、皆さん上級者でありやはり何か違いを説明しなければならない。ちょっと焦ってしまった。確かにこの場所に関する「を」と「から」は日本語教師としてもなかなかやっかいなものである。早速日本語講座が始まった。

  まず表題の「家を出る」と「家から出る」である。この二つに何か違いを感じますか・・・と質問した。すると大部分人は「家から出る」などあまり使ったことはないですが意味は同じだと思いますである。では、「大学を出る」と「大学から出る」はどうですかと聞くと全員即座に「大学から出る」はおかしいですとの答えが返ってきた。そこで少し間を置いて、では例えば携帯電話などで「私はいまUBCから出たところです」はダメですかというと・・・、その場合なら「OKです」がでも・・・と全員やや困惑顔になった。そして更に説明を続ける。でももし彼女の学歴などの話しをしている場合には「私はUBCから出ました」はどうですかと質問すると全員それは絶対おかしいですとの答えである。

  やはり「を」と「から」には何か違いがあり、我々日本人はちゃんと使い分けているのである。でもさすが上級者である、何人かはすでに違いを感じとっており感心してしまった。

  ここで改めて確認のためこんな説明をした。場所に関する「を」はその場所において何か目的のある行為の時に主に使い、「から」はそこを単なる場所として考え、単純な行為を表す場合によく使いますである。そして再度「家を出る」と「家から出る」はどうですか、何か違いを感じませんかと質問すると今度は大部分の人が感じますと答えてくれた。そして「家を出る」の具体的な例文として「彼女は先月結婚して家を出ました」などであり、「家から出る」は確かにあまり使わないが、単純に家から離れる場合には使ってもいいですよである。

 そこでもう一度「大学を出る」と「大学から出る」はどうですかと聞くと、「大学を出る」は「大学を卒業する」という目的のある行為の意味を表すときにも使えますよね、とうれしい答えが返ってきた。だから「大学から卒業した」はおかしな文になってしまう。「から」単なる現象を表すので「涙が目から出る」であり、「涙が目を出る」とは絶対言わないのである。

  ここで冒頭の「トイレを出る」と「トイレから出る」であるが、トイレの場合はどちらも単なる場所として考えているのであり、両者にほとんど差は無いが結論である。何となくホットしているとこんな質問がやってきた。
「犬が小屋を出る」と「犬が小屋から出る」はどうですか。それは犬の勝手でしよう・・・。


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