矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 44

☆ 「うそをつけ」は「うそをつくな」 ?

日本語教育において「命令形」例えば「書け」や「読め」などは生徒はもちろん先生も
教室の中ではめったに使わない。また学習者も日常会話で自分が使う機会などほとんど無いので、導入時期もかなり後回しになってしまう。しかし映画やテレビドラマの中でこれらのセリフを耳にする機会は結構あり、その使用する状況なども含めて、この「命令形」はやはり大事な文法項目の一つである。

先ず命令形の作り方だが「飲む」や「作る」などのいわゆる五段活用動詞(日本語教育では@グループと呼ぶ)はこんなルールを教えている。例えば「飲む」は(まみむめも)の4番目の「め」を使って「飲め」であり、「作る」は(らりるれろ)の「れ」で「作れ」である。そしてその否定形は「な」をつけて「飲むな」や「作るな」と教える。一方、「食べる」や「寝る」などのいわゆる一段活用動詞(Aグループと呼ぶ)は全て最後の「る」を「ろ」に変えて「食べろ」「寝ろ」であり、その否定形はやはり「な」をつけて「食べるな」「寝るな」となる。

  ここまではさほど難しくなく、平穏無事に進めることができるのだが、この後日本語教師にとってちょっと困った問題が待ち受けている。事実日本語教師養成講座の生徒さんからも質問されたことがあるのだが、表題の「うそをつけ」である。これを文字通りの意味に解釈すると「うそをつく」の命令形であり、うそをつくことを命令していることである。「ひじをつけ」や「判をつけ」と同じように「うそをつけ」である。

  しかし我々日本人はこの「うそをつけ」は多くの場合うそをついている人に対する非難の表現として用いている。すなわち「うそをついてはダメだ」ととがめているのであり、そんなことは口調や状況から我々はすぐ判断できるのだが・・・、でも命令形の作り方を学んだ日本語学習者がドラマなどで例えば先生が生徒に対して「うそをつけ」と怒っている場面を見てどうして先生が「うそをつけ」と命令しているのか・・・その戸惑いも大いにうなづける。
そしてこの場合は「うそをつくな」のほうが正しいですよねと質問されると、正にその通り。「うーん」と唸ってしまう。

確かにこの表現よく考えると文法的には奇妙な使い方である。事実「うそをつく」という行為がまだ行われていない場合にはこの「うそをつけ」は文字通り本来の命令の意味を持つのであろう。しかしすでに「うそをつく」という行為がなされた後にこの表現を使う場合は「命令」という機能は全く意味をなさなくなってしまう。そんな場面で我々がこの「うそをつけ」を敢えて使うのは・・・別の機能この場合は「相手への非難」の意味として口調なども変化させて使っているのであろう。正に「言葉」なんて文法的に説明出来ないものもたくさんあるんだよと開き直りたい心境である。

こんな質問もあった。「兎狩り」や「狐狩り」は「うさぎ」や「きつね」を捕まえること、では「鷹狩り」は「たか」を捕まえることですか・・・? 
更に「松茸狩り」と「もみじ狩り」の違いは・・・。
はてさてどう説明したらいいものか・・・、日本語教師の悩みは尽きない。


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