☆ 「Yes」は「はい」 ?
ここはゴルフ場の18番グリーン、大事なパットが残っており、距離もかなりある。あわてずゆっくりとと自分に言い聞かせながらパットする。いい感じでボールはホールに向かって・・・そして見事カップイン。思わずガッツポーズ、「やったー」と叫ぼうとしたそのとき、同伴者のカナディアンから「Yes!」と掛け声がかかった。「Yes」・・・、これを反射的に日本語に訳してしまった。
「はい」である。ロングパットが入った瞬間「はい」である。日本語的にはなんとなくしまりのない掛け声と感じ思わず苦笑してしまったのだが・・・。
「日本語を教えるとき最初に何を教えればいいですか」とよく聞かれる。やはり一般的には「あいさつ」から入るのが無難であろう。しかしここにちょっとした落とし穴が待っている。いろいろなあいさつ言葉を英語で何といいますかとよく学習者から質問される。日本語教師に成りたてのころは一生懸命英語でどう言うのか頭を悩ましたものだが・・・。
言葉は文化と強く結びついており、特に「あいさつ」は文化の結晶といっても過言ではない。その文化の結晶を教える教師としては異なる文化を持つ国の言葉に訳すことなどとても恐ろしい。同じ文化がある「ありがとう」などは構わないが、「行ってきます」や「お帰りなさい」など英語に直訳したらおかしなものになってしまう。冒頭の「Yes」も「やったね」ぐらいに訳さなければ・・・言葉が持つ文化を強く意識しなければならないとつくづく感じるのである。
ゴルフの話に戻るが、日本では短いパットが残った場合「OKです」という。もちろんカナダのプレーヤーも分かるのだが、こちらでは「give me」という。ここで早速言葉の教師としてこんな質問をした。元来この言葉は相手が言ってくれるものであるから「give me」は文法的に間違いで、「give you」が正しいのでは・・・である。しかしその答えは、文法なんか気にせず、いわゆるゴルフ用語の掛け声として「giveme」という言葉を使うの・・・である。確かに言葉の持つ響きから使っているのであろう。またピンに一番近くに寄ることを我々は「ニア・ピン」というがこれは正に和製英語である。こちらでは「closest-to-the pin」という。しかしこれでは長すぎるので、略すと「CP」となるはずだが、これがなんと「KP」というのである。なぜ・・・、あまり追求などせずこれも言葉が持つ文化と言ってもいいのであろう。
和製英語といえばこんな笑い話がある。アメリカを旅行している日本人がコーヒーショップいわゆる喫茶店に入って「モーニング・サービス」を注文したところ、教会に行ってくれと言われたとか・・・。「シュークリーム」を注文したら靴屋に行けと言われるかも・・・。私自身もこんな経験がある。こちらに移住して間もなくマジックテープを買いに行った。この言葉てっきり英語だと思い込んでいたのであるが、店員さんに何回「マジック・テープ」と言っても全然通じない。発音が悪いんだと落ち込んでしまったのだが・・・通じないわけである。こちらでは「velcro」とのこと。でも「マジック・テープ」のほうがはるかにぴったりする。外国語でさえ素敵な言葉に変えてしまう日本語(カタカナ語)の柔軟性に驚いてしまう。
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