矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 41

☆ 「よくなくない・・・」はどっち ?

 「彼の髪型よくなくない・・・」 「そうーね、わたし的にはビミョウ・・・」最近若者の間ではこんな調子の会話が行われている。雰囲気的には何となく分かるような気もするが、意味的にはやはりはっきりしない。どうしてこんな言い方が流行ってきたのだろうか。もっと自分の意見をはっきり言わなければ・・・の小言の一つも言いたくなるのだが、これが今どきの何でも何となくあいまいにそして客観化したい若者気質の流行言葉のようである。

  でも確かにこの「よくなくない」は日本語教師として説明に非常に困る。昔教師に成り立ての頃これに関する質問に困ったことを思い出した。日本語教師として「よい」の否定形は「よくない」と教えるのだが、会話などで「この服チョットよくない・・・」といえば「この服ちょっといいでしょう」である。こんなこと我々日本人はすぐわかるのだが、日本語学習者にはこの「ない」はちょっと曲者である。

これは本来は「〜ないか」の形で相手に同意や確認を求めたり、誘いかけたりする意味で使われているのだが、最後の「か」を省略し、上げ調子のイントネーションを用いて、例えば「今日暑くない・・・」「これおいしくない・・・」などである。しかし「暑い」や「おいしい」の否定形は「暑くない」「おいしくない」と勉強した生徒さんは反対の意味になってしまうのでとても困ってしまう。文法も大事だが言い方やイントネーションの重要性も教えなければならない。

そして冒頭の「よくなくない」は・・・、これもやはり「いいでしょう」の意味に使っているのだろうが、「ない」を一つ入れることによって何となく自分の意見をあいまいにした表現なのであろう。しかし日本語学習者はますます混乱してくる。「まずい」の否定形は「まずくない」、更にその否定形が「まずくなくない」。すると「この料理まずくなくない」は結局どんな
意味なの・・・。困ってしまう。

  「微妙」という言葉も最近若者の間でよく使われている。本来この「微妙」は複雑な意味などが含まれていて何とも言い表せないもの、例えば「微妙な関係」や「微妙な味」のように使うのであるが最近は「ごはん食べた?」「微妙・・・」、「宿題した?」「微妙・・・」何でも微妙になってしまう。それこそ主体性の無さをもろに表している感じがする。こんな時は漢字など使わず「ビミョウ」のほうがピッタリする。

そして「わたし的」である。最近日本語教師養成講座の受講生との会話でときどき気になる表現にぶつかる。例えば「ら抜き言葉についてどう思いますか」の質問に「わたくし的にはこう思います」と答えてくる。そして「先生的にはどうですか」である。どうして「的」を付けるのか尋ねると別に深い意味はないようで・・・。ではなぜ「私はこう思います」とはっきり述べないのかと聞くと、その答えは「ビミョウ・・・」である。確かにあまり自信がないようなときはこの「わたし的」は便利な感じもするが、いかにも日本的・・・。

コンピューターで「ワタシテキ」と打って変換すると「私敵」が出てくる。
やはり日本語的にはこの言葉はやはり「敵」なのかもしれない・・・。
先生的にはそう思います。


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