☆ 「細君・妻君」はどっち ?
ビジネス日本語を勉強している超上級者からこんな質問を受けた。「最近見たテレビドラマの中で時々『サイクン』という言葉が使われていたんですが、これはどんな意味ですか・・・、どんな漢字を書きますか・・・、何となく『奥さん』という意味みたいですけど・・・」である。「うーん、細君ね」 私自身この言葉を使った記憶はほとんど無いし、
日本語教師としてもこんな言葉はすでに死後ではなく死語になって
いる感じがして教える必要などないと思ったのだが・・・。漢字は
「細君」と書き、意味は基本的には自分の妻のことを表す言葉です、
と説明した。
するとやはり上級者である、更にこんな質問されてとても困ってしまった。それではどうして「細」という字を書くんですか、「妻君」の漢字の方が分かりやすいですよねである。うーん、正にその通り・・・「間違えたかな」と思わず辞書を調べてしまった。もちろん正解は「細君」なのだが、確かに日本語学習者には「妻君」のほうが分かり易いと思う。「細」は身分などが低いことを表し、自分の妻を下げていう言葉ですよ、と説明したのだがまるで合点が行かない顔つきであった。事実「妻君」は当て字として用いられているようである。
確かに我々日本人でもうっかりすると間違ってしまう漢字が数多くある。例えば「お客様の応待」などと書いてしまいがちである。この「おうたい」は「応対」と書かなくてはならないが、何となく「応待」のほうがピッタリくる。この「応待」などという言葉は無く、「接待」などからくる錯覚なのかも知れない。また「やくびょうがみ」も何となく「厄病神」と書いてしまいそうであるが、やはりこれも誤りで「疫病神」が正解である。厄介な神なんだから「厄」のほうがふさわしい気もするのだが・・・。
前回の「配布」と「配付」もそれほど明確な違いはないようだがやはり使い分けも必要である。「配布」は多くの人に広く配るニュアンスがあり「駅前でチラシを配布する」であり、「配付」は個人個人にそれぞれ配る感じがするので「試験用紙を受験者に配付する」である。
また「使う」と「遣う」の区別もとてもややこしい。一般的には広く「使う」が用いられており、生徒には動詞形なら「使う」で、名詞形なら「○○遣い」と教えている。「無駄にお金を使う」と「金遣いが荒い」である。でも「気遣う」という動詞もあり、また「手品遣い」は「遣い」で良いのに、「魔法使い」は「使い」を使うのである。「えー、もうやだ・・・」生徒のこんな声が聞こえてきそうである。
確かに日本語には「図る・計る・測る」などの同訓異義語や「保障・保証・補償」などの同音異義語が数え切れないほどあり、日本人にとってもいろいろ注意が必要である。コンピューターの変換キーはそれこそ魔法のごとくいろいろな漢字に変えてくれ便利は便利だが、だからこそより一層漢字と親しくして行かなければならない。
聞き手に「ご静聴ありがとうございました」は皮肉にとられても仕方がなく、「ご清聴」でなければ敬うことにはならないのである。
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