矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 36

☆ 「意思」と「意志」

日本語学習者の多くは漢字に強いアレルギーを持っており、漢字なんか勉強したくないという生徒が大部分である。確かに書くことに関しては書き順なども絡んで最近は日本人でさえ漢字が苦手だという人も増えてきている。しかし反対に漢字の魅力に取り付かれ漢字大好き人間だと自称する生徒さんも結構いるので日本語教師としてはちょっと緊張せざるを得ない。実際漢字は「アルファベット」や「ひらがな」と違って一つ一つにそれぞれ意味を持っているいわゆる表意文字であり、読み方は分からなくても意味は何となく分かってしまう。そんなところに漢字の魅力を感じているらしい・・・。

そんな生徒さんからときどき恐い質問がやってくる。冒頭の「意思」と「意志」の違いなどもその一つで、「先生、日本語を勉強したいという《いし》はどっちがいいですか」である。これも「思う」と「志す」の漢字の意味が分かれば何となく判断出来るのだが・・・、「意思」は一般的な考えで、「意志」は頑張ろうとする心です。だから強い気持ちを表すときには「意志」を使ってください。例えば「勉強したいという意思はとてもすばらしいですが、上達するには強い意志が必要ですよ」などと教えている。

確かに我々日本人でも漢字の表記に関しては困ってしまう場面が多々ある。新年早々年賀状をもらい、挨拶が遅れてしまったので「遅れ馳せながら新年のご挨拶を申し上げます」とメールを出したのだが、その方から「後れ馳せながら」ではないのかとの指摘を受けてしまった。早速調べてみたのだが確かに辞書には「後れ馳せながら」が使われている。困ってしまった。何となく「遅れる」の漢字のほうがぴったりするのだが・・・。実際この使い分けは日本語教育においてもかなり微妙である。「後れる」は後からいく、後に残されるような場合であり、「人に後れをとる」とか「気後れする」などの慣用表現のみに用いられ、それ以外はだんだん「遅れる」を使う傾向にあることも事実である。

日本語の大きな特徴として音節が他の言語に比べるととても少ない。この少ない音節を使っていろいろな物事を言おうとするのであるから日本語は同じ発音の言葉がたくさん出来てしまうのも当然である。いわゆる同音異義語であり、言葉のシャレなどにはとても便利だが、その反面手紙を書く時代から手紙を打つ時代、いわゆるE-メールの時代に変わってこの同音異義語の問題はいろいろな場面で波紋が広がっている。

先日もある生徒さんから「来月の養成口座はいつからですか」のメールが入り驚いてしまった。こんな例はそれこそ枚挙にいとまがなく、皆さんもいろいろなご経験をお持ちであろう。「終末(週末)はいかがでしたか」や推薦(水洗)トイレなどは笑い話で済みそうだが、「ご冥福を記念(祈念)いたします」などは冗談では済まなくなってしまう。
でも「合格を祈念/記念する」などはどちらでも使えるのでややこしい。
では、「試験用紙を配布/配付する」はどっちがいい・・・。  
次回をお楽しみに。


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