矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 33

☆ 「結構です」 は結構?

 日本語教育において「結構です」を教えるのは結構難しい。特に上級者にはその使い方に戸惑いが見られる。例えば「お酒いかがですか」の答えに「結構です」と「結構ですね」では意味がまるで違ってしまう。「ね」が付くだけなのにどうしてこんなに違ってしまうの・・・、こんな嘆きの声が聞こえてきそうである。

確かに我々日本人はこの「結構」をいろいろな場面でうまく使い分けている。例えば八百屋での会話例、「これ結構な松茸ね」「いかがですか、奥さん」「でも今日はお金が無いから結構よ」「お金なんかいつでも結構ですよ」。日本人にとってこんな会話はごく当たり前だが、日本語学習者にしてみれば「結構」ってどんな意味なのと目を白黒させてしまう。

この「結構です」は本来「良いです」の丁寧な表現として用いられている。「お味のほういかがですか」「大変結構です」などであるが、やはり丁寧な表現であるから親しい友達や家族などには使いにくく、何となくかしこまった雰囲気を出したい場合に使う表現なのであろう。

そして本来の「結構です」から少し意味が変わった使い方として上記の「お金はいつでも結構ですよ」である。これはいわゆる「許可・OK」の丁寧な言い方であり、これも非常に親しい間柄では使わないが、相手に親しみや好意などを示したい場合にはよく用いられる。例えばお客さんなどに「少しぐらい遅れても結構ですよ」であり、また先輩などから「一杯、どう?」と誘われて「結構ですね」とちょっと遠回しに喜びを表したい場合などにもとても重宝な表現である。

さらにこの「結構です」は断る場合にもよく使われるので、日本語学習者にはとてもやっかいである。例えば「もう一杯ビールいかがですか」に対して「結構です」だが、この場合「あ」とか「もう」などがとても重要な役目をしていると教えなければならない。「あ、もう結構です」であり、その言い方やイントネーションそして顔の表情などによっても
相手に与える印象が微妙に違ってくるので要注意である。親しい友人や夫婦などふだんはくだけた言葉を使っているのに、何か感情の行き違いなどがあって相手と距離を置きたいと思ったときなどこの「結構です」は大いに威力を発揮する。冷たい表現いわゆるトゲのある言い方をして、相手と距離を置こうとするのである。

このようにこの「結構です」はいろいろ人間関係に配慮しながら基本的には丁寧な表現として用いられている。「結構です」をこのように学んだ上級者がレポートを提出する際、丁寧に言おうと「先生これで結構ですか?」と言ってきた。
うーん、どう注意しようか難しい・・・。


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