矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 30

☆ 「りんご3ケ」はどうして「コ」 と読むの?

日本語教師になる前は「りんご3ケ」の「ケ」が何なのか、そしてどうして小さく書くのか、そんなことまるで気にもならなかった。しかし日本語教師になっていろいろ困ってしまった。確かに我々日本人はこれをちゃんと教わった覚えもないのに「りんご3ケ」は「コ」、「3ケ月定期」は「カ」、そして「自由ケ丘」は「ガ」と苦もなく読めるのである。日本人にとってはごく当たり前であるが日本語学習者にとってはとても大変である。実際生徒さんから「これは漢字ですか?」「どうしていろんな読み方をするんですか?」とよく聞かれる。

さてこの「ケ」は一体何なのであろうか。私と同じようにカタカナの「ケ」と思っている方もたくさんいらっしゃるのでは。

ではその成り立ちは・・・。昔は「箇」の略字として「个」という字が使われており、これが手書きされているうちにだんだん崩れて「ケ」になったといわれている。漢字というよりはむしろ記号であり、形は似ているが決してカタカナの「ケ」ではない。
1946年に常用漢字が設定されるまではこの「ケ」は「箇」の変わりとしてもちろん使用OKであった。しかし常用漢字が設定されて、この「个」の字は常用漢字から削除されてしまい、今ではこの略字は全く使われなくなってしまった。すると当然この「个」を崩した「ケ」も使ってはまずいことになり、基本的には使用禁止になったのである。

日本語教師としては何となくホットしているのだが、でも冒頭の「りんご3ケ」「3ケ月定期」などは一般的にまだまだ使われており、まして「霞ヶ関」や「自由ケ丘」などの地名は当然のごとく用いられているので、生徒さんの戸惑いも多いに頷ける。

ある生徒さんから「先生、にもつサンケロって何ですか」と質問されたことがある。「荷物三ケ口」である。思わず笑ってしまった。

基本的には「ケ」は使用禁止であるから日本語のテキストなどには、例えば「彼は二カ国語が話せます」などと発音通りの「カ」と表記してあり、もちろん「りんご3コ」になっているものが多い。地名や駅名なども発音通りの「が」に変更しているところも増えてきており、「霞が関」「自由が丘」になれば生徒さんも確かに読みやすい。ワープロやコンピューターの表記もこの「ケ」は出てこないものも多いようである。

日本語もいろいろなところでいろいろな変化が起こっている。でも何となく懐かしき良き?日本語が変わってしまうのは寂しいと感じる方もいらっしゃるのでは・・・。
やはり「自由が丘」は「自由ケ丘」のほうがなじみやすいよである。

しかし多くの外国の人が日本語を学ぶようになり、学習者に分かりやすくするための変化もまた必要なのであろう。


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