矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 28

☆ 「愛人」は大切に?

本語を勉強している生徒さんからよくこんな嘆きを聞く。日本語は「ひらがな」「カタカナ」「漢字」があり、まるで3カ国語勉強するようで難しいである。確かに日本語はこの三つの文字から成り立っている言語であり、どうしても覚えてもらわなければならない。

しかし大部分の生徒は漢字など見たくもないとの表情がありありで、教師にとって漢字教育はとても苦労するところである。しかし漢字を母語としている中国の生徒さんなどには全く逆であり、初級レベルのクラスでさへ漢字で書けば意味はすぐ分かってしまうので比較的授業は楽に進められる。

しかし漢字圏の生徒さんにもいろいろ悩みがある。例えば中国の生徒さんはときどき「新聞を見る」という文を作ってしまう。理由はちゃんとある。
中国語では「新聞」は「ニュース」の意味で使われているとのこと。「見る」という動詞を使いたくなるのもよく分かるが日本式漢字の意味も勉強してもらわなければならない。

ご存じ方も多いと思うが日本語の「汽車」は「車」だし、「手紙」は何と中国語では「トイレットペーパー」の意味で用いられている。生徒さんに驚きや戸惑いが見られるのも大いにうなずける。ある日本語上級の中国の生徒さんからこんな話しを聞いた。

中国語では「湯」はスープのことなので、日本語の「お湯を沸かす」がなかなか理解できず、最初はどうしても「お湯を作る」になってしまった。
また日本のお風呂屋さんの入り口の「女湯」「男湯」の表示にも驚いたとのこと。確かに「女のスープ」ではびっくりしてしまうであろう。

そしてもっと驚いたというよりは「うそー」という表現に出くわした。
「彼は娘と同じような年頃の愛人を持っている」である。日本語ではさして驚くこともないのだが・・・。 中国語で「愛人」は「配偶者」の意味であり、「娘」は何と「母親」を意味するとのこと。この文を中国式に解釈すると「彼は母親と同じような年頃の妻を持っている」になってしまい、正に「うそー」である。

日本で教えていたとき、こんな経験もあった。大部分が中国人のクラスで、ある問題を出した。生徒の答えがいつもと同じ型にはまったものだったので「ワンパターンの答じゃダメですよ」と軽く注意したのだが、本人はもちろん急に全員びっくりした様子で教室の中がシーンとなった。
逆にこちらもびっくりしてしまったのだが、後で分かった。

ワンパターンの発音が中国語の「王八蛋」(ワン・パー・タン)にすごく似ており、この意味は日本語の「バカヤロー」といった感じのものすごく汚い表現とのこと。日本語教師の怖さ、そして楽しさを感じたところである。


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