矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 25

「おめでとうございました」は ?

  明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。お正月の挨拶として日本人であれば耳にたこができるほどよく聞き慣れた、そしてよく書き慣れた言葉である。

でもちょっと困ったことが・・・。先日1月も半ば過ぎて日本語を勉強しているある生徒さんからE−メールが届いた。こんなメールである。
「先生、遅くなってごめんなさい。明けましておめでとうございました」である。思わず笑ってしまった。確かに松の内もとっくに過ぎているので、時制にうるさい英語を母語にしている彼女が何となく過去形を使いたかった気持ちはよく分かるのだが・・・、でもやはり「明けましておめでとうございました」はとてもヘンである。

さてどうのようにして彼女に説明しようかと考えていると・・・、ふとこんな事を思い出した。結婚式に出席してお開きになり、新郎新婦にお別れの挨拶を言おうとして「本日はおめでとうございます」か「本日はおめでとうございました」かどちらが良いのか何回となく迷ってしまった・・・。この場合どちらも使えるような気がする。
事実「ありがとう」の場合は「ありがとうございます」も「ありがとうございました」も文句なく使っている。でも「明けましておめでとうございました」は絶対使わない。何故なのだろう。こんなこと今まで考えたこともなかった。

この「こざいます」は「思う」の謙譲語「存ずる」から変化して出来た言い方だと言われている。そしてこの「思う・存ずる」は自分の気持ちを表す言葉であるから、確かにこの「存じます」の過去形「存じました」はかなり違和感を感じる。もし「おめでとう存じました」と言うと、今は「おめでとうと思っていませんよ」という意味にとられてしまうおそれがあり、昔はどんな場合でも必ず「存じます」を用いていたようである。

しかし「存じます」から「ございます」に変化して意味にもズレが生じてきたらしい。明かに過去の事柄について述べる場合、例えば式典などが終わった直後「おめでとうございました」は使えるような気がする。これは気持ではなく式典そのものに対してお祝いを述べているからなのであろう・・・。

ではなぜ「明けましておめでとうございました」は不自然なのか・・・。この言葉は事柄についてではなく、自分の今の気持ち”を伝える挨拶であり、いくら松の内がとっくに
過ぎていても「明けましておめでとうございます」と現在形で言わなければダメなのである。

いくら朝遅い挨拶でも「おはようございました」とは絶対言わないのと同じように・・・。


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