矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 21

☆ 「着物を着ている」はどんな意味?

 ある日本語上級者に「花子さんは一度結婚している」はバツイチのことですよねと言われてびっくりしてしまった。そして更にこの文で「一度」があるか無いかで随分意味が変わってしまうんですねと言われて思わずうなってしまった。
なるほど・・・。そんなこと考えたことも、気にしたこともなかった。

確かに「花子さんは結婚している」と「花子さんは一度結婚している」とでは意味がものすごく違う。「結婚している」という動詞の形は同じなのにどうして・・・。
学習者の戸惑いも確かにうなずける。

この「〜ている」は日本語教育においてかなり難しい項目のひとつである。
例えば一例として「歩いている」と「立っている」では文法上ではかなり異なる。
すなわち「歩いている」は動作がいま進行中であり、「歩く」⇒「歩いている」⇒「歩いた」の順番になるが、「立っている」はすでに立つという動作は終わってその結果の状態を表しており、「立つ」⇒「立った」⇒「立っている」の順番になる。ちょっとややこしいが確かに異なる。「お寿司を食べている」や「お寿司を作っている」が前者で進行中の動作を表しており、「会議が始まっている」や「木が倒れている」が後者に属し、結果の状態を表している。

では表題の「着物を着ている」は・・・この「着る」という動詞を前者の動詞と考えれば進行中の動作を表すことになり、今正に袖に腕を通して着物を着ている行為のことであり、後者の動詞と考えれば、着る行為が終わってきれいな着物を着ている状態を表す。この「着る」という動詞はおもしろい動詞で、「着る」⇒「着ている」⇒「着た」⇒「着ている」のように「着ている」が二回も出てくるので、状況が分からなければ意味がはっきりしない。

残念ながら標準語とされる関東弁にはこの区別を表す表現は無いが、地方によってはこの違いを明確にしている言葉がある。例えば四国の高知などでは最初の「着ている」を「着ゆう」と言い、二番目の「着ている」は「着ちゅう」というとのこと。「花子さんはいま着物を着ゆう」と「花子さんはきれいな着物を着ちゅう」である。方言の素敵な温かさ、言葉の豊かさを感じる。

そしてこの「〜ている」にはまだまだ複雑な問題がある。例えば「知る」という動詞であるが、「花子さんの電話番号知っていますか」の答えに「はい、知っています」だが、否定形は「いいえ、知りません」である。なぜ「知っていません」ではダメなんですか? こんな質問をよく受ける。
「うーん、そんなこと知っていません」この表現何となく相手に失礼な感じを与える。
日本語の微妙な気配りに恐れ入る。


戻る  
バンクーバー新報投稿エッセイ 外から見る日本語21
  次へ
Copyright (C) 2008 Yano Academy. All Rights Reserved.