☆ 「電信柱とぶつかる」はダメ ?
「田中さんと会う」と「田中さんに会う」はどう違うんですか?
こんな質問をよく受ける。いわゆる「と」と「に」の違いである。 でもこんなことをいちいち気にしている人は少ないし、意味的にもほとんど違いはないように思えるのだが・・・。
しかし「花子と結婚する」は使うが、「花子に結婚する」とは言わないし、「プロポーズする」は「に」しか使えない。更に「ぶつかる」という動詞は「車とぶつかる」も「車にぶつかる」もどちらも使える。こうなると、確かに「と」と「に」にはかなり違いがありそうで、日本語教師としてはその違いを強く意識しなければならない。
こんな説明をしている。「と」はこちらと相手と各々50%ずつの一緒に行う動作に使い、「に」はこちらが100%で相手は0%の動作、いわゆる一方的な動作に使いますよである。ですから「結婚する」は 相手と一緒に行う相互的な動作であり「と」しか使えない。
一方「ぶつかる」は「と」「に」両方使えるが、「車とぶつかる」はお互いに動きが必要で、例えば交差点で出合い頭にぶつかる感じであり、「車にぶつかる」は停車中の車にこちらから一方的にぶつかる感じを分かってもらわなければならない。
確かに我々日本人は何となく無意識のうちにこの違いを感じ取ってしまうが、生徒にしてみればとてもやっかいであろう。
では表題の「電信柱 とぶつかる」はやはり「に」のほうがふさわしい感じがする。電信柱は基本的には動かないのだから・・・。
大事な例文として「花子と話す」と「花子に話す」がある。
「花子と話す」は花子と一緒にお互いに話す行為であるが、「花子に話す」はこちらから花子に一方的に話すすなわち伝える行為になり、意味が変わってしまうので要注意である。
そして「と」と「に」にはもう一つ大きな違いがある。丁寧さの問題である。例えば「先生と相談する」よりは「先生に相談する」のほうが先生に対して敬意が感じられる。確かに難しい。「どうして?」生徒さんの嘆きが聞こえてきそうである。
では冒頭の「田中さんと会う」と「田中さんに会う」の違いはどうであろうか。上記のいろいろな決まりをこの文からだけで説明することは不可能であり、初級レベルでは「会う」という動詞などは「どっちでもいいですよ」と教えている。確かに「偶然」が付いたり「入院中の田中先生」であれば「に」のほうがぴったり感じるし、二人で約束したのであれば、「約束の喫茶店で田中さんと会う」のほうがふさわしい感じがする。
あした花子とデートの約束をした男子生徒が「花子とキスした」か「花子にキスした」かどちらで報告してくれるか楽しみである。 |