矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 18

☆ 「宿題はうれしい?」

授受動詞いわゆる「あげる・もらう」は日本語教育において一番やっかいな項目である。例えば He gave her a present. と He gave me a present. このセンテンスで英語では 「her」 だろうが 「me」 だろうがgive という動詞は絶対変わらない。
しかし日本語では 「彼女」 と 「私」 とでは動詞が変わってしまう。
「彼は彼女にあげた」 であるが 「彼は私にくれた」 である。

 こんなこと我々日本人には当たり前のことだが、 英語はもちろん世界中のどこの言語も「彼女」と「私」で動詞が変わることなど考えられないのである。日本語を学ぶ生徒さんにとって難しく感じるのは当然であろう。 この「くれる」を教えるのが一苦労である。

 更に「田中さんは弟におかしをあげました」と「田中さんは弟におかしをくれました」の文でこの弟が誰の弟なのか我々は即座に 判断できるのだが、学習者にとっては大変である。いわゆる「内と外」の概念を意識しなければならない。英語では単に give という動詞を使って his brother かmy brother かで表せばいいのだが・・・。

 また「ガールフレンドの花子は父にネクタイをくれました」であるが、「妻の花子は父にネクタイをあげました」になってしまう。どうしてガールフレンドと妻とで違うの?
学習者の嘆きが聞こえてきそうである。

 また 私⇒Aさんの場合「私はAさんにあげました」は使うが「Aさんは私にもらいました」は不自然である。
これがAさん⇒Bさんの行為であれば両方問題なく使えるのだが・・・。どうも日本語は「私」や「家族」が絡むと一筋縄ではいかなくなってしまう。
日本語教師が教室でよく使う表現に「みなさん、宿題をあげます」があるが、これも生徒さんを混乱させてしまう。日本の中高生レベルで皮肉が理解できるのであれば問題ないし、また宿題がうれしいのであればいいのだが・・・。生徒さんは「宿題できました。先生にあげます」と言ってしまう。
この授受動詞は感謝の気持ちを表すときに使いますよと教えなければならず、日本語学校で「宿題をあげます」は不適切な感じがする。宿題は嫌いですよね。

 では「母がセーターを送ってくれた」と「母にセーターを送ってもらった」はどう違うのであろうか。基本的な意味は同じであるが、我々は微妙に使い分けている。例えばこのセーターがあまり似合わないと思っている場合、「母が送ってくれたんだけど」を
無意識に使うような気がする。微妙な心の動きを表せるのである。
もし「もらう」を使うとこちらから頼んだ雰囲気をも感じさせられるのである。

では「台風がそれてくれた」は良いのに、「台風にそれてもらった」はなぜダメ。


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