矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 14

☆ 「ことば」と「しぐさ」

日本人がする「おいで、おいで」のしぐさは、ここカナダでは「Go away」という意味にとられてしまい、 カナダ式の手のひらを上に向けての「おいで、おいで」は日本人にすれば何となく小ばかにされているような感じがする。 また日本人は自分の鼻に指を
向けて「私」と言うが、このジェスチャーはこちらではとても奇妙なしぐさに見られてしまう。正に「お国変わればしぐさ変わる」であり、しぐさの説明は日本語教師として言葉と絡んだやっかいな代物である。
その代表的な質問に「なぜ日本人は電話でおじぎをするんですか」がある。日本語教師になりたてのとき、ある生徒からこの質問を受けてしまった。確かにテレビドラマなどでもよく見かける光景であり、私自身もサラリーマン時代何回となく電話の前で頭を下げていたように思う。でも「なぜですか?」と言われると困ってしまった。
日本語教師として何とか説明しようと「そうですね。日本人は礼儀正しい・・・」などと今となればかなり的外れな答えをした記憶がある。

 その生徒はスリランカの学生で、すでに英語は完璧にマスターしており、日本語も2年間で上級の力をつけていた。そして卒業後、日本の貿易商社に就職したのだが、ある日その彼から電話がかかってきた。「先生、お会いしたいですね。初めてのボーナスも出たので・・・」である。約一年振りのうれしい再会であったが、彼は会うなり「先生、昔つまらない質問をしてすみませんでした」と謝るのである。先の質問である。そんなことすっかり忘れていてキョトンとしている私に彼の説明はこうであった。

いま会社で英語と日本語を使って仕事をしているが、「Thank you」と英語で言うときには頭など絶対下がらないのに、「ありがとうございます」 と日本語で言うといつの間にか自然におじぎをしている。自分自身どうしてこうなったのかまるで分からない。だからあんな質問は説明出来るはずはないし、質問するほうが間違っているのでは、であった。

ショックを受けた。しかし心地よいショックであった。正に目から鱗が落ちる思いであった。英語、日本語両方の言語を外国語として学んだ彼の話しにはとても説得力があった。「そうだね。そんなこと説明なんかできないし、また説明する必要もないんだ」
また生徒から教えられた。

 その国の文化と絡んだ言葉やしぐさなど説明など出来ないことはたくさんある。大事なことはその違いを認め、そしてその違いを楽しむことなのでは・・・。ネパールでは小指を立てるしぐさはトイレに行きたいとのこと。
「先生、これしたい!」誤解もまた楽しである。


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