矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 11

☆ 「てにをは」とは?

日本語学習者に日本語のどこが一番難しいですかと聞くと「助詞」と答える人が多い。確かに「父、子、話す」と言っても「父が子に話す」と「父に子が話す」とでは意味が異なってしまう。
また「東京に住む」と「東京で暮らす」は意味はほとんど同じだが、動詞によって助詞が異なり、確かに学習者にとってはやっかいなものであろう。しかしこの助詞は日本語の大きな特徴であり、日本語教育においても最重要項目のひとつである。すなわち「てにをは」の使い方である。

でもなぜ「てにをは」なのか・・・。日本語教師に成り立てのころ、これは助詞、助動詞の総称と学んだ記憶があるが、なぜ「てにをは」なのか、あまり気にもかけなかった。しかしあるとき、日本語上級者になぜ「てにをは」と言うんですか、助詞のことなら
「はがのにを」のほうが良いのではと質問を受けて困ってしまった。
正にその通りである。これは昔(平安初期)漢文訓読の際に漢字に点などをつけたのだが、その四隅の点を続けて読むと「てにをは」になることに由来していると辞書にある。しかしこれを外国の人に説明するのは難しい。助詞などの大変古い呼び方だと説明している。

確かにこの助詞は学ぶ側も教える側もとても難しい。例えば「私」を英語で何と言うの問いに大部分の人は「I」と答える。
しかし正確には「私」だけは英語には訳せない。「私は」や「私が」なら「I」だが、「私の」は「my」 である。 助詞を言葉と言葉をくっつける「のり」と教えている。

この助詞の使い方に関してこんな話がある。カナダで生まれ育った日系2世の子供が日本のおじいちゃんの家に遊びに行って怒られてしまったのである。その原因は「部屋の中で犬小屋を作りたい」と「部屋の中に犬小屋を作りたい」の違いが分からず、
「で」を用いておじいちゃんの了解をもらい、部屋の中に犬小屋を作ってしまったのである。 実際英語ではどちらも 「I’d like to make a doghouse in my room.」 である。日本語では「に」と「で」では雲泥の差があり、日本人であれば違いは容易に分かるのだが、英語ではこの違いを表すには特別な補足説明が必要であろう。

これと逆に日本人が英語を学ぶとき冠詞いわゆる 「a」 と 「the」がとても難しい。「a」 の有無にそんなに大差は無いように思えるのだが・・・。 しかし 例えば「Alec is a good company」 と「Alec is good company」 の違いは英語が母語の人はすぐ分かる。
もちろん会話では文脈から 「Alec」 が会社の名前なのか、 人の名前なのか判断でき、 たいした問題ではないのだが・・・。

外国語の勉強には正に「習うより慣れろ」を座右の銘にしたいものである。


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