矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 6

☆ 「お返事、ご返事」どっち?

  ある授業のとき数字遊びでもしようと生徒に好きな数を聞いてみた。「好きな数は何ですか」である。そのあとしばらくして、ある生徒が「先生の好きなおかずは何ですか」と質問してきた。一瞬びっくりしてシャケと答えようとしたのだが・・・。

確かにお金やお茶などのように「お」をつけると丁寧な言い方になる。その生徒も丁寧に言おうとして「お数」と言ったのである。
しかし「お」をつけると意味が違ってしまうのも数多くあり、なかなかやっかいな問題である。これに関してよく知られている話だが、外国の人が夜遅く電話をしたとき「夜分、すみません」を丁寧に言おうとして「お」をつけてしまったのである。
「おやぶん、すみません」。電話を受けた日本人はさぞかし驚いたことだろう。また「やじがうるさくて困った」に「お」をつけたりすると家庭不和にもなりかねない。

更に「説明」を丁寧に言おうとすると「お説明」ではなく「ご説明」である。これは日本人にとっても結構複雑に感じるのであるから、日本語学習者にとってはとても難しい問題である。

では「お」と「ご」の使い分けはどのようになっているのであろうか。
こんなこと意識して学んだ記憶はないが、確かに一応決まりがある。和語いわゆる固有の日本語には「お」が付き、漢語すなわち漢字音からできている言葉には「ご」が付く。家は「お家」だが、家庭は「ご家庭」である。しかし例外もたくさんあり非常に困ってしまう。例えば電話や時間などは規則からいえば「ご」であるはずなのに「お」が使われている。では表題の「返事」はどちらであろうか。これも漢語であり本来は「ご」なのだろうが、今は「お」を使う人のほうが多いように思える。
また、外来語には付けないのが原則であるが、「おビール」 や「おソース」 などは当初ほど違和感はなくなってきた感じがする。

こんな質問を受けて困ってしまった。猿や馬には「お」を付けてもおかしくないのに、どうして犬や猫には付けないんですか、である。確かに「お猿」は自然に聞こえるが、「お猫」は不自然である。思わず唸ってしまった。童謡などで聞き馴れているいるからであろうか。実際のところ規則などにはあまりこだわらず習慣や慣れによって使い分けているのであろう。

生徒からこんな話も聞いたことがある。「床」 という言葉が「ふとん」と同じ意味にも使えることを学んだ生徒が自己紹介で「たまにはふとんの上で寝てみたい」 の 「ふとん」 の代わりに「床」 を使ったのである。しかも丁寧に言おうとして、「お」を付けてしまった。「おトコ」である。 周囲の驚きと彼女の狼狽ぶりが目に浮かぶ。


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