矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 184


☆ 「銀座(を・で)ぶらつく」・・・?
 

この秋に日本行きを計画している日本語上級者からこんな質問を
受けた。「日本旅行する」と「日本旅行する」はどっちが
いいですか、である。
日本は紅葉がとてもきれいなので、いろいろ紅葉の名所に行って
いろいろ見学したいとのこと。

うーん、なるほど。でもこの場合は、ほとんど意味は同じで、あまり気
にすることはないよ、と言ったのだが、確かに場所に関するこの「を」と
「で」はかなり意味の違いがあり、日本語教育において、この違いを
教えることはとても大事である。

初級レベルではこんな例文から説明している。「プール泳ぐ」と
「プールの第一コース泳ぐ」である。同じ「泳ぐ」という動詞だが、「で」は
プールの中でする動作や動きを強く表している。一方「を」はプールの
狭いコースの中を泳いでいく、いわゆる通過する感じを表している。

もちろん「第一コースで泳ぐ」でも意味は通じるが、まずこの違いを
少しでも分かってもらわなければならない。「で」はその場所で何か動作
をするときに使い、「を」はその場所を通り抜けるようなときに使いますよ、
と教えている

そして次に「廊下」を使って説明する。「走る」は「廊下を走る」となり、
「遊ぶ」は「廊下で遊ぶ」である。我々日本人はこんなこと当たり前で
あり、ちゃんと使い分けている。でも生徒にはややこしい。

しかし日本人でも紛らわしい場合がある。一般的には「公園散歩
する」が使われており、「公園散歩する」はちょっと違和感を覚える人
も多い。これは日本人のイメージとして公園は小さいものと相場が
決まっており、小さな公園の中で散歩という動きが感じづらいからで
あろう。

でも、スタンレー公園みたいな大きな公園であれば、「スタンレー公園
で散歩する」にもあまり不自然さは感じない。個人の「広さ」や「大きさ」
に対する感覚の違いや後ろにつく動詞によって、言葉の使い方も変わる
のでややこしいが、興味深い。

そして日本語教師養成講座の中でこの話をしていたら、今の若者
はほとんど使わないようだが、「銀座ブラ」が話題になった。一般的には
「銀座ぶらつく」だが、映画や買い物や食事などいろいろなことをしよう
と思っている場合には
「銀座ぶらつく」のほうが適切な感じもする。

そして、驚いたことにこの「銀ブラ」の語源は「銀座でブラジルコーヒー
を飲む」からきているとのこと。でも調べてみると確かに大正初期にできた
言葉で、当時はコーヒーといえばブラジルコーヒーだけであり、銀座で
ブラジルコーヒーを飲む、いわゆる「銀ブラ」がハイカラだったようである。
びっくりだが納得である。

日本人としてちゃんと教わった記憶はないが、ちゃんと使い分けて
いる。川は「川泳ぐ」も「川泳ぐ」も両方使っているのに、海の場合は
「海を泳ぐ」は使いにくい。「太平洋を泳ぐ」はスーパーマンしか使えない
かも。母語の感覚のすばらしさと日本語教育の難しさを感じた次第で
あります。




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