矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 177


☆ 「友達」と「友人」
 

今年の冬はかなり暖かかったので、桜の開花が例年より早かった。
ここバンクーバーには桜の木がたくさんあり、いろいろな場所で桜見物が
出来るのでとてもうれしい。いわゆる春の風物詩である「お花見」である
桜の木の下にゴザを敷いて、食べたり、飲んだりの日本のお花見風景
を思い出しながら、でもここバンクーバーではあのようなお花見は全く
考えられず、この時期なるとちょこっと寂しさも感じてしまう。

そんな日本のお花見のことをよく知っている上級者と居酒屋で
「桜まつり飲み会」としゃれこんだ。そして彼から面白い質問を受けた。
「飲み友達」という言葉はときどき聞きますが、「飲み友人」も使い
ますか? である。こんなこと我々日本人は考えもしないので、思わず
笑ってしまったが、なるほどである。「友達」と「友人」の違い。確かに
英語ではどちらも「friend」であろう。

今まで「友達」と「友人」の違いなど考えたこともなかったが、確かに
「飲み友達」は使うが「飲み友人」とは言わない。うーん、ほとんど同じ
意味の言葉として、無意識に使っていたが、何か違いがありそうで、
考え込んでしまった。

先ず読み方であるが、「友人」は音読み(中国式)なので、やはり
改まった少し硬い感じがする。一方「友達」は訓読み(日本式)なので
柔らかで気楽な感じである。だから「飲み友達」や「茶飲み友達」の
ようにカジュアルな雰囲気を出すために「友達」を使うのであろう。

そして結婚式などのような公な場合には「友達代表」よりは
「友人代表」のほうがぴったりする。目上の人に紹介するときは「私の
友人です」となるし、同僚などに紹介する場合は「僕の友達」のほうが
ふさわしい。なるほど、確かに我々日本人はうまく使い分けている。

そしてこの「友達」の表記であるが、いろいろ歴史的な変遷があり、
昔は「友だち」とひらがなで書いていたようだが、現在は「友達」と漢字で
表記している。それはこの「友だち」という言葉は「僕たち」や「男たち」の
ように「友」の複数を表わしていた言葉だったが、現在では単数、複数
に関係なく、「友人」と同じように使われているので、「友達」と漢字表記
で良くなったとのこと。

確かに「僕たち」や「男たち」のように複数を表わす場合の「達」はひら
がな書きのほうが良いとされている。すると「友達」を複数にするときは?
ルール的には「友達たち」になるのだが、言いにくいので「友人たち」を
使ったほうがよさそうである。

また、どちらが親しいのか、も話題となった。これは個人差もあろうが、
「会ってすぐ友達になった」というが、「すぐ友人になった」とはあまり言わ
ないので、「友人」のほうが親しさは上かもね、となった。

でもそんなことはどうでもいいことで、すごく親しい友の「親友」が大切
ですよ。すると彼は心の友の「心友」も素敵ですよね、と続けた。
びっくり仰天、それにしても、大したものである。



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