矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 176


☆ 「十二支」は何気におもしろい
 

今年は申(さる)年、私の干支(えと)である。人に何歳か聞くのは、
特に女性には大変失礼だが、「干支は何ですか?」と聞くと答えてくれる
人も多い。そして頭の中で懸命に計算する。別にそんな理由からでは
ないが、上級者には日本の文化として、この十二支を教えている。

これは大昔中国で作られたもので、覚えやすいように身近な動物を
割り当てたと云われている。ただ国によって動物が違うので面白い。
日本では12番目の動物は「いのしし」だが、本家中国や韓国などは
「ぶた」である。また「
ねずみ」にだまされた「猫」は十二支に入っていない
が、ベトナムでは猫が入っていると聞いて、びっくり。
「卯」(うさぎ)の発音
が猫に似ており、猫のほうが身近な動物なので選ばれたとのこと。すると
ベトナムでは猫はねずみを追いかけないのかも? タイなども猫が入ってい
るようで、それぞれの国の文化とも絡んでとても興味深い

この十二支は、方角や時刻を表わしている。「子(,)」を北にして
夜中の12時、「
(うさぎ)」は東で朝の6時、「午(うま)」は南で昼の
12時、そして「酉(とり)」が西で夕方の6時である。こんなこと現代では
全く必要ないが、「丑寅(うしとら)」は北東になり、「丑の刻」は真夜中の
2
時前後。「草木も眠る丑三つ時」は2時〜2時半ごろとなる。

鬼が出入りする悪い方角を「鬼門」と呼んでいて、方角は北東。
十二支では「
丑寅」なので、鬼は丑(うし)のツノがあり、寅(とら)のパンツ
をはいているんですよ、と説明すると結構うける。

でもこんなこと日本語教育にはどうでもいいことだが、ときどきこんな
質問を受ける。「北東」か「東北」か、どちらが正しいですか、である。
確かに両方使っているが、これにはちゃんとした理由がある。言葉におけ
る文化の違いである。方角をいうとき、日本語では「東西南北」であり、
「東西」を先にいう。これは農耕民族として、太陽の日の出と日の入り、
すなわち「東」と「西」がとても大事だったのであろう。

しかし西洋では異なる。英語では「north south east and west」で
ある。日本語でいうと「北南東西」となり、なぜか「北」と「南」を優先させ
ている。いわゆる日本式と西洋式の文化の違いである。

「東北地方」や「西南戦争」そして早大校歌の「都の西北」などは
当然日本式なので、「東西」が先である。しかし明治以降どんどん
西洋文化が入ってきた。西洋式では「北南」が先にくるので、「North
East
」や「South West」となり、「北東」や「南西」である。現在では
ほとんどが西洋式になってしまった。日本語教師としては日本式を教え
たいところだが、やはり「北東」や「南西」と教えたほうがよさそうである。

そして子午線(meridian)も、正に「子」は北で、「午」は南。すなわち
地球の北と南を結んだ線。また「正午」も「正に午」で、ちょうど昼の
12
時、その前だから「午前」で、後だから「午後」。みんな「十二支」と
結びつきのある言葉ですよ、と結んでいる。



戻る  
バンクーバー新報投稿エッセイ 外から見る日本語176
 
エッセイへ戻る
Copyright (C) 2008 Yano Academy. All Rights Reserved.