矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 156


☆ 「享年80歳」 はダメ・・・?

最近知り合いの方の悲報が続きました。加齢とともにこのような
悲しい知らせが増えていくのは、いたしかたのないことですが、やりきれ
ない思いです。

先日友人の追悼セレモニーの席で日本の方から、こんな質問を受け
た。「享年○○歳」は間違いですよね
? である。確かにこの「享年」の
使い方はややこしく、ときどき教師仲間でも話題になる。

この「享年」とは、「天から与えられた年数」という意味の仏教用語
であり、享年にはすでに「年」が含まれており、「歳」を付けるとダブって
しまう。正しい表記は「享年○○」で「歳」は付けない。

また「享年」は正式には数え年を使うとされている。すると満年齢と
1歳もしくは2歳ずれてしまう。例えば満80歳で亡くなった場合は
「享年
81または82」と書かなければならない。ややこしい。でもこれが
一応昔からの決まりとされている。

しかし「享年80歳」などと「歳」がついている辞書もあり、このような
表記をよく見かける。どちらでもいいような気もするが、正しく「享年
80
と書いてある新聞などを見るとさすがだと感じる。

でも年齢はほとんど満年齢を用いているとのこと。本来の使い方と
しては誤りなのであるが、現在では数え年はほとんど使われておらず、
満年齢のほうが分かりやすい。あえて古い決まりに固執することはないと
思う。言葉の変化を優先させるのか、それとも本来の正しさを重視する
のか、確かに言葉として難しい問題でもあるが・・・。

その代表例が「とんでもございません」である。これは前にも取り上げ
たが、丁寧に断る場合にかなり多くの人が「とんでもございません」を
使っている。確かに「とんでもないです」よりは丁寧に聞こえる。しかし
この「とんでもございません」は文法的には大間違いなのである。
でもよく使われている。

先ず日本人は「ない」という表現に何となくぶっきらぼうな雰囲気を
感じる。例えば喫茶店で「カフェオレありますか」に対して、「ないです」と
言われると何となく腹がたつ。そこで「ないです」よりは少し丁寧な
「ありません」、もっと丁寧に「ございません」を用いるのである。

この発想から「とんでもない」の「ない」を「ございません」に変えて
「とんでもございません」という丁寧と思われる言葉が作り出された。
しかし「とんでもない」は一つのちゃんとした形容詞であり、「ない」の部分
だけ勝手に変えては文法違反である。

これは例えば「やりきれない」を「やりきれございません」と言うのと同じ
であり、「とんでもございません」は文法的には間違いである。「とんでも
ないことでございます」が正しい言い方だとされているのだが、「とんでも
ございません」がどんどん広まってしまった。

そして2007年に文化庁もこの「とんでもございません」は問題がないと
認めている。言葉は時代とともに変化することに対応した一例である。

「享年80歳」は正しい使い方ですよね ?
  とんでもございません。


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