矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 154


☆ 「会話」 この漢字はもう古い・・・?

 日本語上級者と「会話」という漢字の語源が話題になった。この
漢字の成り立ちは文字通り「会って話す」である。

実はかなり昔だが、上級者として彼を叱ったことがあった。彼は
トロント出身で、実家で急な用事があり、至急トロントに行くことに
なった。いつバンクーバーに戻れるかはっきり分らず、とりあえず彼は
「バンクーバーに戻るとき、先生に電話します」と言い残してトロントに
急いだ。

そしてしばらくして彼から電話がかかってきた。当然トロントからの
長距離電話だと思い、手短に「いつバンクーバーに戻ってきますか
?」と
聞いたら、「今から学校に行ってもいいですか」である。びっくりして
しまった。何しろ彼は「バンクーバーに戻るとき、電話します」といったの
だから・・・。

この「戻るとき電話する」と「戻ったとき電話する」の違いは、電話を
かける場所が異なる。こんなこと我々日本人は簡単に分かるのだが、
初級レベルの生徒には難しい。でも彼は上級者である。

例えば「家を出るとき、電話する」と「家を出たとき、電話する」の違い
である。「家を出るとき」は家から電話することであり、「家を出たとき」は
家の外から電話することになってしまう。すると当然「家を出たとき、
電話する」はとても不自然な日本語である。家の前に公衆電話でも
あれば別だが、基本的には不可能であった。しかし携帯電話の出現
により、この「家を出たとき、電話する」という表現を可能にしてしまった
のである。

「会話」とは確かに「会って話す」ことであるが、電話の発明で、会わ
なくても話せるようになった。電話など考えられない時代は「いまから
そっちに行くから待ってて」などの日本語はありえなかったであろう。
叫び声としては使えたであろうが・・・。ちょうど携帯電話など全く考え
られない世代の人が、「家を出たとき、電話する」の表現がとても
不自然に感じたのと同じように・・・。

携帯電話、特に昨今のスマートフォンなどの急速な進歩により、
言葉がどんどん変わっていくのも当然である。家の中の、いわゆる
固定電話での会話で「いまどこにいますか
?」などの表現は絶対あり
えなかった。また「もしもし
どちらさまですか」などの表現も携帯電話
ではあまり必要なくなってしまった。

また会社の電話応対で「田中課長いらっしゃいますか」に対して
「田中は外出中です」と「田中」と言わなければならないが、
しかし奥さんからの電話に対しては、「田中課長は」と言わなければ
ダメである。この「内と外」の切り替えはビジネスの電話応対にとても
大事なことだったが、直接携帯電話や携帯メールなどを使えばいいの
だから、そんな面倒なこともなくなってしまった。間違いなく携帯電話の
出現は会話にどんどん大きな変化をもたらしている。

そして彼が何気なく「会話」という漢字はもう古いですね。「快適に
話す」ということで「快話」はどうですか。
うーん、なるほど、確かに !



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