☆ ホントは「プロポーズしてもらった」?」
日本語教師養成講座の受講生で、働きながら日本語も少し教え
ている卒業生が久しぶりに学校に来てくれた。そして教室に入ってくる
なり、彼女うれしそうに話し始めた。「先生、彼がやっとプロポーズして
くれました」である。
彼氏のこともよく知っており、彼女の父親代わりを自認している者とし
てはうれしい報告である。そして「それはよかったね」と乾杯しながら、でも
それを言うなら「プロポーズしてもらった」だろう・・・と、昔の授業を思い出
しながら二人で笑った。
これは「もらう」「くれる」の教え方に用いる題材である。例えば新しい本
を見せながら、「友達が送ってくれました」と「友達に送ってもらいました」
の違い。この文法的な違いは分かるが、その使い方の微妙なニュアンス
は上級者でもなかなか難しい。どちらも感謝を表す言い方として教えて
いるが、自分から友達に積極的に頼んだ場合には「送ってもらった」の
ほうがふさわしいですよ、である。
すると彼女が彼に「早くプロポーズしてよ」と頼んだ場合は当然「彼に
プロポーズしてもらった」であろう。どうもそんな雰囲気を感じるが、そこは
日本女性として、たとえ頼んだとしても「彼がプロポーズしてくれた」といい
たいところなのであろう。
確かにこの「くれる」と「もらう」は使い方に大きな違いがある。「くれる」は
迷惑を表す用法もあり、「とんでもないことをしてくれた」は使うが、「とん
でもないことをしてもらった」とは絶対言わないのである。
これに関連して上級者からよく受ける質問がある。車内放送などの
「ご乗車いただきましてありがとうございます」と「ご乗車くださいましてあり
がとうございます」はどう違うのか、である。
確かにどちらもよく聞くが、さてその違いは。敬語が絡むと我々日本人
でもややこしいが、この表現を敬語抜きで考えると分かりやすい。
「ご乗車いただきまして」は「客に乗ってもらって感謝する」になり、
「ご乗車くださいまして」は「客が乗ってくれて感謝する」である。
すると客からすれば別に頼まれて電車に乗っているわけではないのだ
から、「ご乗車いただきまして」はおかしな表現である。そして「ご乗車くだ
さいまして」は客が電車に乗ってくれた行為に感謝している表現であり、
こちらのほうがふさわしい感じがする。
しかしこの「くださる、いただく」の敬語表現はどちらも強い感謝の気持
ちを表しており、どちらが文法的に正しいか、などは関係ないとのこと。
文化庁の「敬語の指針」にも敬語の慣用的な表現としてどちらも適切
と記されている。事実「ご乗車いただきまして」のほうが敬意が高く感じる
のでよく使われている。確かに違いなど気にする必要はなさそうである。
表題のプロポーズの件だが、「彼にプロポーズされた」などの受身表現
もよく使われる。これは「隣の人に足を踏まれた」と同じ迷惑の受身だ
が、うれしい場合でもわざとこんな表現を使って、おどけたり出来る。
日本語って誠に奥の深い言語である。
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