矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 147


☆ 「入れる」の読み方は・・・?

 日本語教師養成講座の卒業生から先日こんな質問を受けた。「入れる」の
読み方をどのように教えるか・・・である。確かに漢字が絡むと日本人にとっても
ややこしい動詞がいくつかあるが、これもそのひとつである。

これは先ず「はいる(入る)」と「いれる(入れる)」を意識しなければならない。
文法的には自動詞(入る)と他動詞(入れる)の違いであるが、そんなこと意識して
いる日本人は少ないし、分からなくても別に日常会話は全く問題ない。

しかし可能形が絡んでくるといろいろややこしくなる。「はいる」の可能形は
「はいれる」であり、漢字で書くと「入れる」となる。すると「いれる」の漢字「入れる」
と同じになってしまい、その説明は確かにややこしい。

でも我々日本人はもちろん文脈から容易に判断できる。例えば「自動販売機に
お金を入れる」は「いれる」であり、「この部屋には10人も入れる」は「はいれる」
であろう。

でもでも「この部屋に10人入れる」の場合は・・・、「いれる」か「はいれる」か微妙
であり、前後の状況から判断しなければ分からない。日本語学習者には「なるべく
ひらがなで書きましょう」と教えたほうが良さそうである。

さらに「行く」と「行う」も日本語教師としてはややこしい動詞である。この時点では
「いく」と「おこなう」で問題はないのだが、これが「行っています」になると事は
ちょっとややこしくなる。これは「いっている」とも「おこなっている」と両方に読める
のでなかなか判断がつきにくい。

「ガレージセールを行っています」と「ガレージセールに行っています」である。
日本人は助詞の「を」や「に」で判断できるが、確かに生徒には難しい。
「おこなっている」を漢字で書く場合には「行なっている」と指導している。

このようなこと日本人はほとんど気にもならないが、日本語を教えるとなると
いろいろ気になってくる。

お世辞のひとつも上手に言える女性の上級者がお別れ会の席でこんな挨拶を
した。「先生に教われて・・・」あとはチョッと涙声で「とてもうれしかったです」。
オーバーなお世辞と感じながらも教師冥利に尽きる思いで、先生としてはとても
うれしい気持ちになる。 

これを漢字で書けば別に問題はないのだが、スピーチとなると困ったことになって
しまう可能性もある。「教わることができた」の意味の「教わる(おそわる)」の
可能形は「教われる」である。

でも「襲う」という動詞の受身形も「襲われる」であり、ひらがなで書くと
「おそわれる」である。

これをスピーチとして聴く場合、「矢野先生におそわれて・・・あとは涙」 
聴いている人の誤解が恐ろしい。


戻る  
バンクーバー新報投稿エッセイ 外から見る日本語147
 
エッセイへ戻る
Copyright (C) 2008 Yano Academy. All Rights Reserved.