矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 145


☆ 「ひとり、ふたり、次は・・・?

ここは中華レストラン、1年ほど前に日本語教師養成講座を受講した若手の
卒業生とランチを食べに入った。彼曰く「ここのチャーハン、とても美味しいですよ、お腹が空いているので、僕は二人分食べます」である。

そして早速この「二人分」の読み方が話題になった。「ふたりぶん」か「ににん
ぶん」か・・・、彼曰く「当然『ふたりぶん』ですよね」である。確かに「ににんぶん」は
聞きなれない。でも「二人前」の正式な読み方は「ににんまえ」である。「ふたりまえ」でもいいのだが、なぜ「分」と「前」で読み方が変わるのか、ややこしい。

しかし「三人分」と「三人前」はそんな問題は起こらない。これは「一人、二人、
三人、四人、五人」の読み方に原因がある。日本語教師として生徒に「人の数え方」を教えるときは、何も考えずに「ひとり、ふたり、さんにん、よにん、ごにん」と教え
ている。

しかしよく考えてみると、一人(ひとり)、二人(ふたり)は和語いわゆる日本式の
読み方であるが、三人(さんにん)からは漢語の「にん」の読み方である。なぜ
「ひとり」と「ふたり」だけ和語の読み方にするのか・・・、もしこんなこと日本語
上級者から質問されたら困ってしまうね、と彼と真顔で話し合った。彼はいま
日本語を教えている新米教師である。

確かに考えたことはなかったが、少し調べてみるとはるか昔は「ひとり、ふたり、
みたり、よたり、いつたり」のように全て和語で数えていたようである。そしてまた
当然漢語式の「いちにん、ににん、さんにん」もあったであろう。そしていつからか、
人の数え方は「ひとり、ふたり」だけ和語が残り、「さんにん」から後は全て漢語に
なって自然と定着したのであろう。なるほどである。

だから「一人」と「二人」はどっちを使うか、混乱を招くのは当然である。「二人」は
「ににん」も使い、「二人三脚」などがいい例である。そして「二人組」はどちらもOK
とされているようであるが、何となく使い分けている感じもする。二人組の強盗など
は「ににんぐみ」であるが、友達と二人組は「ふたりぐみ」のほうがいい感じ・・・。

でもなぜ「ひとり、ふたり」だけが和語なのか、確かに不思議である。和語は話し
言葉として馴染みやすかったのであろう。特によく使う「ひとり」と「ふたり」は・・・。
確かに「ひとりぼっち」が「いちにんぼっち」では馴染めないし、「ふたりの秘密」も
「ににんの秘密」ではピンと来ない。でもいつかピンと来る時代が来るかも・・・。

言葉はその時代、時代の人々の感性や語感などによってどんどん変わっていく。彼曰く「言葉は生きているんですね」である。こんなことを話しながらのとても
有意義なランチであった。彼はすでに一人前の先生である。

ところでこの「一人前」の読み方は・・・。


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