矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 129


☆ 「惚れる」と「惚ける」

日本語教師としては遅まきながらだが、なかなか興味深い発見である。表題の
「惚れる」と「惚ける」であるが、両方同じ漢字であり、送り仮名によって読み方が
変わるのである。もちろん意味も大違いであるが、このように「ほれる」と「ぼける」
が同じ漢字であったとは・・・、分かったとき、ちょっとびっくりしてしまった。

早速多くの日本の人に聞いてみたが、かなりの人が、「えー、うそー」と驚きの
声をあげた。そしてこの「惚」という漢字をいろいろ調べてみると、先ずりっしん偏
である。ご存知のようにこれは「心」を表しており、漢字で書くと「立心偏」で「心」が
立っている形である。  

そして「勿」+「心」で「心あらずして、はっきり見えない」という意味とのこと。この
ようにこの「惚」という漢字は「心」が二つも使われているので、間違いなく心の動き
を表す漢字なのである。「気をとられて、ぼんやりする」というそんな意味に使われ
るようになったと辞書にある。

そう言われてみると、「ほれる」も「ぼける」も確かに同じような心の感情なのであ
ろう。自分はまだボケていないと思っているから・・・、はっきり分からないが・・・、
大いに納得である。

そして次にこの「惚れる」を英語では何と言うか調べてみた。もちろんすぐ思い
つくのが「love」であるが、英語にもいろいろな言い方があるのだろうと、辞書を
ひいてみた。そしてこんな単語に出会った。「dote」である。

この動詞の意味として、辞書には最初に「熟愛する」とある。例として
a doting father」で「子煩悩の父親」などが載っている。そして驚いてしまった
のだが、次に「ぼける」「もうろくする」が載っているのである。「えー、英語も
同じなんだ・・・」と食い入るように見つめてしまった。

早速この「dote」について、英語を母語とするいろいろな人に聞いてみたが、
ほとんどの人がそんな単語は知らないである。そしてある英語の先生が、
「dote on 〜」で「〜を強く愛する」という意味がありますよと答えてくれた。でも
とても古い単語で現在はほとんど使われていないとのこと。

ましてもうひとつの「ぼける」という意味があるとは、ほとんどの人が知らなかった。でもかなりお年寄りの方を対象とした場合の「a doting person」などは何となく
「ぼける」の感じが意識出来るとのこと。正になるほどである。

「ほれる」と「ぼける」が同じ漢字であるように、英語の「dote」にも二つの意味が
あるとは・・・、何かすごいことを発見したようで日本語教師としてとてもうれしく
なってしまった。

そして加齢すればするほど、積極的に人や物に惚れれば、惚け防止になるの
では・・・、「惚れることは惚けないこと」そんな教訓を得た思いである。


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