矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 123


☆ 「晒す」と「曝す」


日本語教師養成講座の中で漢字教育に関してときどきこんな話をしている。
「姿」と「妾」の漢字は逆になってしまったのでは・・・、妻の「次の女」すなわち
「姿」が「めかけ」で、「立っている女」すなわち「妾」が「すがた」のほうが理にか
なっていると思いませんか。

そして次に「晒す(さらす)」と「泊まる」の漢字もやはり逆なのでは・・・、「さらす」
は水で白くするという意味だから水を表す、さんずい偏に白の「泊」のほうがふさ
わしく、「とまる」は日(太陽)が西に傾くと旅人はとまらなければならないので、
日偏に西の「晒」のほうが「とまる」なのでは・・・授業の合間にこんな冗談を話し
ている。さらに「豆腐」と「納豆」も・・・、よく考えると「豆が腐る」のだからこちらが
「なっとう」だよね。こんなたわいない話をしていると、でも何となくそんな気にも
なってくる。

それはさておき、表題の「さらす」という漢字には「晒す」と「曝す」と二つ漢字が
ある。確かに両方とも常用漢字ではないので馴染みがなく、特に「曝す」はほと
んど見たことがない。でも漢字はちゃんと使い分けている。この「さらす」は大きく
分けると二つの意味がある。一つは「白くする」で漢字は「晒す」であり、「水に晒し
て白くする」などである。もう一つは「当たるままにしておく」という意味で「曝す」で
あり、「風雨に曝される」などである。

そして今回の福島原発事故によって話題になっているのが「被ばく」という単語
である。確かに今までは全く考えたこともなかったが、辞書には「被爆」と「被曝」の
両方載っている。すなわち「ばく」の漢字が火偏の「爆」か、日偏の「曝」かである。

まず「爆」は「破裂すること」であり、爆弾などに使われている漢字で、常用漢字に入っているから馴染みがある。一方日偏の「曝」は「日に当てること」であり、上記
の「曝す(さらす)」と同じ漢字である。すると当然「被爆」と「被曝」はかなり意味が
違ってくる。火偏の「被爆」は爆撃を受けることであり、日偏の「被曝」は通常は
放射線にさらされることである。そして「被爆」には良い被爆など絶対ありえないが、
「被曝」には良い被曝もありそうである。でもこの「曝」は常用漢字ではないので
「被ばく」とひらがな表記が普通であり、響きはやはり怖いものと感じてしまう。

こんな話を上級者としていたら、彼からおもしろい話を聞いた。日本語初級の
友人が「だいじょうばない」と言ったとのこと。最初は何のことだかよく分からな
かったが、実は「だいじょうぶ(大丈夫)」を「あそぶ」や「はこぶ」と同じように「ぶ」で
終わる動詞と思ってしまい、「あそぶ」の否定形は「あそばない」だから「だいじょう
ばない」と・・・、これには思わず笑ってしまった。そして「日本はだいじょうびます」と
二人でハモってしまった。



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