矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 117


☆ 「妻」「家内」それとも「女房」・・・?


 日本にも住んだ経験がある日本語上級者が先日突然やってきて「先生、この
近くにおいしいランチのお店があります。食べに行きませんか」と誘われた。
「そんな急に、ダメだよ。女房が作ってくれた弁当があるから・・・」と断ったの
だが・・・。すると彼はニヤニヤしながら「奥さんに作ってもらった弁当でしょう」と
言い返してきた。

 そして思わず昔の授業を思い出して二人で笑ってしまった。確かに「女房が
作ってくれた」と「女房に作ってもらった」ではちょっと意味が異なる。彼がまだ
中級レベルのときこの「あげる、もらう」いわゆる授受動詞がなかなか理解出来ず
かなり厳しく教えたのであった。「おまわりさんに教えてもらった」と「おまわりさんが
教えてくれた」、こんな例文を使って、いずれも感謝を表す表現だが、自分から
おまわりさんにお願いした場合は「教えてもらった」のほうがいいですよと教えた
のである。確かにこの違いは日本人にしてみれば容易だが学習者にはややこしい。

 「だから・・・、先生の場合は『作ってもらった』のほうが正しいのでは・・・」である。
「うるさいな、そんなことどうでもいいの・・・」とちょっと怒りながら、でもこんな冷や
かしも出来るほど上達したようでとてもうれしい気持ちになった。

そしてさらにこんな質問が・・・、「先生はよく『女房』や『家内』を使いますが、
どんな違いがありますか」である。うーん、これには大いに困ってしまった。
自分ではほとんど意識していないのだから・・・。もちろん初級レベルの生徒には
まず「妻」を教える。そして会話をするときもちゃんと意識して「妻」という単語を
使うのだが、上級者と話すときはほとんど意識せず・・・確かに「家内」や「女房」
さらに「かみさん」なども使っているような感じがする。

これらの単語は世代や個人差によって感じ方がどんどん異なってきている。
語源などにも影響を受けて「家内」や「女房」に違和感を持つ人もいるであろう。

私の場合は彼に質問されて改めて意識してみると一般的には「妻」を使っている。そして親しい目上の方などには「家内がお世話になっております」などと「家内」を
用い、仲間や若い人にはちょっとおどけて「女房」などと言って何となく使い分けて
いる気がする。また日本では「ワイフ」と言うと何となくキザな感じに聞こえていたが、ここバンクーバーではごく自然であり、最近は「ワイフ」も使うようになってきた。

そして「夫」に関しても「旦那」や「主人」に昔の意味から判断して違和感を持つ
人も多いと思う。でもこれらの言葉は本来の意味と違った使われ方をしている
典型的な例であり、使う本人の感じ方で使い分ければいいのであろう。

彼からさらに「山の神」や「宿六」はどんな意味ですかと質問されないことを
祈りつつ・・・。



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