矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 114


☆ 「花子にキスした」はダメ・・・?


  「田中さん会う」と「田中さん会う」はどう違いますか・・・、こんな質問をよく
受ける。いわゆる「と」と「に」の違いである。でも我々日本人はこんなことを気に
している人は少ないし、意味的にもほとんど違いはないように思える。しかしちゃんと使い分けているのも事実である。偶然などが付くと「偶然田中さんと会った」という
人が多いし、まして「友達と話す」と「友達に話す」の違いはすぐ判断できる。

 しかし学習者は大変である。「花子結婚する」は使うが、「花子結婚する」とは言わないし、「プロポーズする」は「に」しか使えない。更に「ぶつかる」などの動詞は
「車とぶつかる」も「車にぶつかる」もどちらも使える。やはり「と」と「に」にはかなり
違いがあり、日本語教師としてはその違いを強く意識しなければならない。

 こんな説明をしている。「と」はこちらと相手と一緒に行う動作に使い、「に」は
こちらからの一方的な動作のときに使いますよ、である。「結婚する」は相手と
一緒にする動作であり「と」しか使えない。一方「ぶつかる」は「と」も「に」も両方
使えるが、「車ぶつかる」はお互いにぶつかった感じで、交差点で出合い頭に
ぶつかるである。そして「車ぶつかる」は停車中の車にこちらから一方的に
ぶつかる感じで、この違いを分かってもらわなければならない。 

大事な例文として前出の「友達と話す」と「友達に話す」がある。「友達と話す」は
友達と一緒に話す動作なので「相談する」と同じような意味になり、「友達に話す」は自分から
一人で友達に話す動作なので「言う」や「伝える」と同じような意味になる。
こんなこと我々日本人はとても簡単だが、
生徒にしてみればとても厄介であろう。
特にこの「話す」は意味が変わってしまうので要注意である。

 そして「と」と「に」にはもう一つ大きな違いがある。丁寧さの問題である。例えば
「先生相談する」よりは「先生相談する」のほうが先生に対して敬意が感じら
れる。また相談する内容によっても変えている・・・。確かにややこしい。

 では冒頭の「田中さん会う」と「田中さん会う」の違いはどうであろうか。上記
のいろいろな決まりをこの文からだけで説明することは不可能であり、初級レベル
では「会う」という動詞などは「どっちでもいいですよ」と教えている。確かに偶然の
場合や、「入院中の田中さんに会う」であれば「に」のほうがぴったり感じるし、
二人で約束したのであれば、「約束の喫茶店で田中さんと会う」のほうがふさわ
しいのでは・・・。

 するとやはり「花子キスした」はちょっと問題なのでは・・・、嫌がる花子に無理
やり・・・。そんなこと二人の問題だからどうでもいいじゃないですか・・・、そんな
男子生徒の声が聞こえてきそうである。



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