矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 112


☆ 「重さ」と「重み」の違い


日本語教師養成講座を受講して日本語を教え始めた新米の先生からこんな質問を
受けた。「『重さ』と『重み』の違いをどう教えればいいですか」である。これは正に日本語
教師泣かせの質問の一つであり、私も過去に同じような質問をされてとても困ってし
まった経験がある。

初級で先ず簡単な形容詞を導入する。「長い・短い」「大きい・小さい」や「重い・軽い」などである。そしてしばらくして形容詞の名詞化も教えなければならない。いわゆる「長さ」
「大きさ」や「重さ」などである。これは「長い」「大きい」や「重い」の「い」を「さ」に変えれば
いいのだからさほど難しくはない。

ここまでは何も問題ないのだが、中級レベルになると形容詞を名詞化するもう一つの
方法も必要になってくる。いわゆる「み」をつけた「重み」などである。この「み」が加わって
くると日本語教師は大変である。まず学習者は「長さ」「大きさ」や「重さ」と同じように
全ての形容詞に「み」が付くと思ってしまう。当然「長み」「大きみ」そして「重み」である。
しかし日本人は「長み」や「大きみ」などは使わない。

そして当然こんな質問が待っている。「長み」や「大きみ」はなぜ使わないんですか・・・。
またどうして「重み」はあるのに「軽み」はないのか・・・。さらに「あつみ」も「厚み」はちゃんと
辞書にあるのに「暑み」は辞書に出ていない・・・。こんな質問をするのはかなりの上級者
で、先生を困らせようとする意図もありありなのだが・・・確かにややこしい。

でもこのようなこと我々日本人はほとんど考えたこともないが、改めて質問されると困ってしまう。「暖かみ」はあるのに「涼しみ」はない。「甘み」はあるのに「しょっぱみ」はない、でも
どうして・・・とても説明できない。無いものは無い、でも日本語教師としては何とか格好
つけたい。開き直ってこんな教え方をしている。「『さ』は全ての形容詞に付くから安心して
ください。でも『み』は残念ながら、ごく限られた形容詞にしか付かないので、どんな形容詞
に付くのか、先生と一緒に勉強していきましょう」である。

そして次の質問が「さ」と「み」と両方ある例えば表題の「重さ」と「重み」の違いである。
これもなかなか説明しにくい。でも日本人は特別習った記憶はないがちゃんと使い分けて
いる。「重さは10kgです」のように具体的な程度などを表す場合は「重さ」を用いる。
一方「重みのある言葉」や「伝統の重みを感じる」などその人の主観的、感覚的な判断
によるような場合には確かに「重み」がしっくりくる。やはり「重みは10kgです」は違和感が
ある。しかし学習者にはとても難しい。でも上級者になれば「厚さ」と「厚み」の違いなども
何となく分かってもらわなければならない。

「首相であれば使う言葉にもう少し『重み』を持ってほしいですね。人間性にもあまり
『厚み』が感じられません」 うーん、正にその通り。でもこんなこと日本語上級者に言って
もらいたくはないのだが・・・。




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