矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 95


☆ 「やわらかい」と「やわらかな」は・・・?


師走も半ばを過ぎると日本語教師としては除夜の鐘やお正月など年末年始の
行事のことを説明したくなる。特にお正月の食べ物は日本文化そのものと言っても
過言ではなく、日本語教師としては意識しなければならない。でも最近はお正月の
雰囲気がどんどん薄れており寂しい限りであるが・・・。

お正月の食べ物と言えば「おせち料理」と「お雑煮」であるが、上級者になるともの
すごく詳しい人もいる。例えばおせち料理は「おめでた」を重ねるために「重箱」に入れ
るんですよね。さらに黒豆や田作りの”いわれ”など、日本人もうかうか出来ないほど
よく知っている。

またお雑煮のお餅も関東は四角で、関西は丸と分かれていますよね・・・である。
うーん、東京育ちの私としてはお雑煮のお餅は四角と決まっていたので、でも確かに
関西では丸いお餅が入っている。そしてその上級者から冗談半分にこんな質問が・・・。
なぜ「丸」と「四角」には「丸い」と「四角い」という形容詞があるのにどうして「三角い」は
ないのですか、である。

それは、お正月のお餅に三角形はないから作らなかったんだよね・・・と冗談をいい
ながら、最後にこんな質問を受けてしまった。「やわらかいお餅」と「やわらかなお餅」は
どう違いますか・・・である。そんな違いなど気にする必要ないのだが、日本語教師と
してはやっかいな質問である。

だいぶ前にも書いたが、日本語教育では「広い部屋」のように「い」で終わるものを
「い形容詞」、そして「しずかな部屋」のように「な」で終わるものを「な形容詞」と教えて
いる。でもややこしいのは「い形容詞」と「な形容詞」と両方に使えるものがいくつかあり、
その一つが「やわらか」である。

確かに「やわらかいお餅」と「やわらかなお餅」と両方使える。ではその違いは・・・。
こんなこと我々日本人はほとんど意識したことはないのだが、やはり何となく使い分けて
いる。例えば「日差し」などは「やわらかな日差し」のほうが落ち着く感じがする。何か
目に見えない抽象的なもの、「物腰」などもやはり「やわらかな物腰」のほうがふさわしい
のでは・・・。

確かに「土」の場合には「やわらかい土」でも「やわらかな土」でもどちらでも構わないが、
「大地」となると「やわらかな大地」を使いたくなってしまう。こんなこと習った記憶など全く
ないのだが、確かに使い分けているので・・・とても不思議である。

すると「やわらかいお餅」と「やわらかなお餅」の違いは・・・。例えば具体的な「お餅の
作り方」などの場合は「やわらかいお餅の作り方」のほうが良さそう。一方お菓子の宣伝
など、例えば「やわらかなお餅に包まれ極上の大福」などのようにイメージを表す場合は
やはり「やわらかな」のほうが落ち着く感じがする。

でもこの違いはいくら上級者でも理解するのは難しく、またこんな違いは日本語学習
においては全く必要ないのである。こんな違いなど気にせずもっと「やわらかな態度」で
勉強しなさいと言おうとして・・・困ってしまった。やはり気にしているのである。




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