矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 80


☆ 「飲みにくい」と「飲みづらい」の違いは・・・

日本語学習者に「〜やすい」と「〜にくい」を導入するととたんに表現力が豊富に
なってくる。すでに勉強した動詞と組み合わせてどんどん例文を作らせるのである。
「このパン・食べる」や「このワイン・飲む」などと単語を提示して「このパンは食べやすい
です」や「このワインは飲みにくいです」などと言わせていくのである。そして生徒も自分で
いろいろな文を作りたくなって・・・「バンクーバーは住みやすいです」。こんなすてきな
例文も作ってくれる。なかには先生にごまをすって、「先生の授業はわかりやすいです」
など・・・。さらに「バンクーバーは遊びにくいです、でも日本は遊びやすいです」などと
分かったような分からないような文を作ってくる生徒もいる。

しかし中・上級レベルになって「〜づらい」が入ってくるとややこしくなる。日本語教師
にはとても困ってしまう質問が待っている。表題の「飲みにくい」と「飲みづらい」の
違いは・・・、である。こんなこと日本人はあまり意識したことはないのだが・・・でも
何となく自然に使い分けている感じがする。しかし「どう違うのか」と改めて質問されると
確かに困ってしまう。

こんな例はどうであろう。あるパーティーで高そうなワインが一杯残っている。思わず
それを飲もうと手を出した。すると周りの人にじろりと見られた・・・、こんな場合多くの
人は「飲みづらいなー」を使うような気がする。「〜づらい」を漢字で書くと「辛い」であり、
この「〜づらい」はかなり心理的な困難を表現したいときに使い、一方「飲みにくい」は
「このワインは甘すぎてちょっと飲みにくい」など何か物理的な困難さがあるようなときに
よく用いるようである。

動詞の種類によっても異なる感じだが、「食べる」も「このパンは大きくて食べにくい」で
あり、「居候、三杯目にはそっと出し」のように「食べづらい」は正に居候の心理を表して
いるのであろう。もう一つの例として「会社に行きにくい」と「会社に行きづらい」は・・・、
「行きにくい」は何回も電車やバスの乗り換えが必要な場合「あの会社は行きにくい」で
あり、きのう会社で大きなミスをしてしまった・・・そんな心理的な要素が絡んでくると
「会社に行きづらい」を使う人が多いのでは・・・。

確かに我々日本人はこの微妙な違いを何となく使い分けているのだが、これを
日本語学習者に教えるとなると大変難しい。上級者になるまでは「〜づらい」は
必要とせず、「〜にくい」だけを教えている。この「〜にくい」は心理的なことも含めて
どちらでも使える。「ミスをしたので、会社に行きにくい」でも全然問題ないのだから・・・。
実際日本人でも判断しにくいものもたくさんある。「見にくい」と「見づらい」なども
どっちも同じような感じが・・・。「見にくい」は「醜い」と同じ発音なので使わないほうが
いいのかも・・・。

でも間違いなく「〜づらい」は心理的要素が含まれるので、基本的には「飲む」や
「食べる」などの意思動詞に使われる。よって「乾く」や「燃える」などのいわゆる
無意思動詞に「〜づらい」が付いた「乾きづらい」や「燃えづらい」などは確かに
不自然さを感じる・・・。でもこれを外国の人に説明するのは・・・、
本当に説明しにくいor説明しづらいですよね。



戻る  
バンクーバー新報投稿エッセイ 外から見る日本語80
 
Copyright (C) 2008 Yano Academy. All Rights Reserved.