矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 1

☆ 「会社と家庭とどっちが大事?」

日本語教師になる前、日本で20年近くビジネスマンをしていた小生にとって日本とカナダのビジネスマンの意識の違いがとても気になる。

一つの例として「会社と家庭とどっちが大事?」という質問がある。日本では昔よく会社で聞かれた質問だが、こちらのビジネスマンに聞いてみた。彼らいわく、「それは質問になっていないので、答えにくいですね。そんなことあまり意味の無い質問だと思います」と一蹴されてしまった。つまり家庭と会社は同じカテゴリーではないので比較など出来ないと言うのである。

この質問は例えば「牛肉とりんごとどっちが好き?」の質問と同じで、 牛肉とりんごは比べられず、すんなり答えられないのは確かである。「りんごとみかんとどっちが好き?」なら簡単に答えることができるのに・・・。 

ここが日本とカナダの大きな違いだと強く感じた。日本では「会社と家庭とどっちが大事?」は一応質問形式になっているのである。つまり会社を家庭と同じ「うちサイド」に置き、家庭と同等なものとして考えているのである。この概念が日本独特の文化と言っても過言ではないと思う。昼間家族に「こん
にちは」と言わないように、自分の会社に「こんにちは」と言って入って行かないのである。

さてこのように文化と絡んだことを教えるのは、日本語教師としてはなかなかやっかいな問題である。こんな教え方をしている。
「いってきます ⇔ いってらっしゃい」
「ただいま ⇔ おかえりなさい」の挨拶言葉の力を
借りるのである。 「この挨拶は家から出かけるときや帰ってきたときに使いますね。でもこの挨拶は会社でも同じように使うんですよ。だから家庭と会社は同じものと考えてください」である。

「会社に行く」を英語では、と聞くと迷わず「I go to work」である。 そこに《会社》は出てこないのである。 なぜ「I go to my company」 と言わないのかと聞くと、「それはとてもヘンです」である。 ここに日本とカナダの
会社に対する考え方の違いが凝縮されているように思えてならない。 つまり日本は会社を自分が属している集団としてとらえている。そこには当然帰属意識、仲間意識が芽生えてくる。家族意識と同じような。

しかしカナダでは会社は自分が働く単なる場所としてとらえている。だからそこに属している帰属意識などはほとんど無く、「go to company」 はほとんど意味をなさないのであろう。

では 「うちの会社」 は英語では何というか。 こんな簡単な言葉でも文化が絡むとなかなか一筋縄ではいかなくなってしまうのである。


   
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