矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 174


☆ 「年の瀬」の「瀬」とは・・・?
 

いよいよ師走、忘年会のシーズンである。しばらく英語教師として
日本に行っていた生徒が久しぶりにバンクーバーに戻ってきた。早速、
昔の仲間と一緒に忘年会を行なった。日本語もかなりうまくなったであろ
うと期待しながら、先ずはビールで乾杯。そしておつまみを食べながら、
彼曰く、「先生、このきんぴら、やばいです」である。「やばい」、一瞬びっく
りしたが、さすがである。ものすごくおいしいことを「やばい」という、日本の
若者言葉もちゃんと身につけて、大した上達ぶりである。

そしてこんな質問を受けて、更にびっくりしてしまった。この時期の
日本語上級者の質問は「なぜ12月を『師走』というのか?」が大半で
ある。でも彼の質問は「年の瀬」と「年末」の違いは?、そしてなぜ「瀬」と
いう漢字を使うのか?、である。驚いてしまった。

今までこんな質問を受けたこともないし、考えたこともなかった。「年の
瀬」は「年の瀬」、「年末」と同じ意味ですよ、と答えるのが精一杯。
でも確かになぜ「瀬」という漢字を使うのか、困ってしまった。いろいろ考え
たが分らず、「ごめん」と謝って、スマホでちょこっと検索してみた、こんな
とき便利である。

語源は「川の瀬」からきている。「瀬」は川の浅い、流れの速い所であ
り、年末はいろいろと人の動きが速いので、「年の瀬」というようになった。
なるほど。そこで百人一首の歌「瀬を早み・・・」を思い出した。うーん、
意味ありな言葉である。

意味的には「年の瀬」と「年末」は同じだが、確かに、日本人は
「年の瀬」に何か深い想いを感じる。昔から使われている表現だからで
あろう。でも今まで何も考えずに使っていた。誠に情けない。

そして今度はお雑煮の餅が話題になり、こんな質問を受けた。「やわ
らかいお餅」と「やわらかなお餅」の違いである。そんな違いはいくら上級
者でも気にする必要ないと思うが、今度は任せとけと、早速、日本語
講座が始まった。

確かに「やわらかいお餅」と「やわらかなお餅」は両方使える。でもそん
な違いなど日本人はほとんど意識したことはないが、何となく使い分け
ている。例えば「物腰」などは「やわらかな物腰」のほうが落ち着く。
具体的なものではなく、目に見えない、心で感じるものには、なぜか
「やわらかな」を使いたい。

例えば「土」の場合には「やわらかい土」でも「やわらかな土」でもどち
らでもいいが、「大地」となると「やわらかな大地」を使いたくなる。こんな
こと習った記憶はないが、確かに使い分けている。

するとお餅の場合、例えば具体的な「お餅の作り方」はどちらでも
いいが、お菓子の宣伝、例えば「やわらかなお餅に包まれ極上の大福」
のようにイメージを表す場合は、やはり「やわらかな」のほうが落ち着く
感じがする。でもこんな違いはいくら上級者でも理解するのは難しく、
意識する必要はない。

「皆さん、『年の瀬』も迫りましたね。そのようなことはあまり気にせず、
『やわらかな気持ち』で、新年を迎えてください」と締めくくった。



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