矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 170


☆ 「おもてなし」は素敵
 

しばらく日本に行っていた日本語上級者がバンクーバーに戻って
きた。そして学校にお土産を持ってきてくれた。しばらく振りの対面で
ある。

早速「日本はどうでしたか」と質問した。彼女は開口一番「日本が
ますます好きになりました」とうれしい答えが返ってきた。ビジネス敬語
などもしっかり身につけた日本語大好き人間であるが、日本での長期
滞在は初体験。お正月やおひな祭り、夏の花火大会や七五三など
いろいろ体験し、また写真でしか見たことなかった着物姿の舞妓さん
なども見ることができ、改めて日本そして日本文化の素晴らしさを感じ
たとのこと。

そして一番感激したことはお店のお客への応対とのこと。カナダとの
違いに大いに驚いたという。私もカナダに移住して20年、かなりカナダ
スタイルに慣れてきたが、依然としてまだなじめないものがこの接客態度
である。「お客さまは神様です」を強く感じている日本人にはここカナダ
の客への応対には「俺はお客だぞ」と言いたくなる場面が多々ある。
カナダで育った彼女が日本のお客さまへのサービスの素晴らしさに感激
したのも容易に理解できる。

そしてこんな話をしてくれた。あるデパートに日本人形を買いにいき、
いろいろ探したが見つからず、店員さんにどこにあるか尋ねた。
すると店員さんは「申し訳ございません、日本人形は5階になります」と
答えた。それを聞いてびっくりしたとのこと。

先ず「申し訳ございません」である。これは謝るときの表現と分かって
いる。でも何で私に謝るのかしら。そうね、それはお客さんがいろいろ探
し回って大変だったから、お客さんへのいたわりですよ。すると彼女いわく、
「これが日本の『おもてなし』ですか、素敵ですね」である。

また「5階になります」も気になったとのこと。こんな場合、ここカナダで
は単に「the fifth floor」であろう。「これは何か特別な意味があるんで
すか」と質問されて、困ってしまった。このような言い方は確かにサービス
業などではよく耳にする。この場合「5階です」でいいのだろうが、「お客さ
まは神様です」の日本ではやはり少し機械的で冷たい感じがするのであ
ろう。しかし「3階でございます」では逆に大げさすぎて硬い感じがする。

そこでこの「3階になります」が登場したと言われている。確かにこの表
現は意味的にはヘンだが、音声面からは濁音が無く、何となく温かみと
柔らかさを感じる表現だと言われている。

おつりをもらう場合も、「300円になります」をよく聞く。これは間違い
で、耳障りだと感じる人も多い。「300円です」のほうが分かりやすいが、
何となくお客さまへの配慮と感じて、かなり使われている。

 でも、レストランなどで天ぷらを注文して、ウエイトレスが「てんぷらに
なります」と運んできたら、「いつ天ぷらになるんですか」と、尋ねてみよう
と二人で笑ってしまった。言葉の「おもてなし」はほどほどにである。


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